食品からバイオ、医療へ

加熱せずに物質を脱水乾燥する凍結乾燥は風味を損なわずに食品を乾燥保存できる技術として重宝されています。例えば、最新のバイオテクノロジーにより、様々なバイオ医薬品が現れてきており、ヒト型のホルモンや酵素、サイトカイン、成長因子、血液成分、ワクチン類、モノクローナル抗体などが医薬品として開発されています。そのような貴重な医薬品を保存する手法としてもアルバックの真空凍結技術が寄与しています。この真空凍結乾燥に、高速凍結を組み合わせることで材料のミクロな構造を維持した保管技術とすることができます。高速凍結+凍結乾燥は、アルバックの微噴凍結技術(マイクロパウダードライ)によって実現可能です。我々はマイクロパウダードライを使って、従来は維持できなかった食品、医薬品の本来の機能を保存する技術の研究を行っています。このような保管技術の進歩は医療分野に新たな分析・診断手法をもたらします。

「真空凍結乾燥」
食品や薬品を一度凍結させ、真空下に置くと氷が水蒸気として昇華します。これを利用して食品や薬品を乾燥させると、熱を使わないので、熱に弱い医薬品の保存や、風味を維持したい食品の保存が可能となります。医薬品の分野では、高価な薬品を低コストに保存する技術として重要な技術となっています。

 

「マイクロパウダードライ」
凍結乾燥では凍結過程と乾燥過程に分かれており、それぞれ異なる装置が必要でした。アルバックのマイクロパウダードライでは、凍結も真空を利用して行うことが特徴です。

  1. 原液をノズルから真空状態にしたチャンバーの中に噴霧します。
    すると水分が瞬時に蒸発し、蒸発熱を奪われて液滴は冷却され、瞬時に凍結します。
    私たちはこの凍結を「自己凍結」と呼んでいます。
  2. 凍結粒子は冷却加熱棚に集められ、真空中で水分を昇華させ、乾燥粉体となります。

「自己凍結」について少し詳しく説明します。
水が水蒸気として蒸発するためには、1gあたり約2500Jの熱が必要になりますが、真空中での水の蒸発でも状況は同じなので、液滴自身から熱が奪われます。そして17%の水分が蒸発すると、20℃の液滴が-40℃まで温度低下し、凍結粒子となります。直径100μmの液滴では、計算上これらが0.0085秒という極めて短い時間で起こり、急速凍結が実現されているのです。

このマイクロパウダードライの特長は、
・多孔質 な乾燥粉体が得られること、凝集が少ないこと
・ノズルにより粒径を制御可能であること、球状粉体を製造できること
・乾燥粉体の粒子間で成分の組成ずれが無いこと
・粉砕工程が不要なこと、シャープな粒子径分布となること
が挙げられます。
これらの特長により、乾燥粉体の製品には、優れた溶解性や均一性、成分の維持という品質向上が期待でき、さらには工程の短縮にもなります。下図左の画像は、5%マンニトール水溶液を200μmノズルで噴霧し、凍結乾燥させた粉体の光学顕微鏡画像です。粒子径の揃った球状の粉体が得られていることが分かります。また右のグラフは、その粉体の粒子径分布を示しています。このように、一般の凍結乾燥粉体や粉末薬と比較して、シャープな粒子径分布となっていることが分かります。
これらの粒子径は、ノズル径を変更することで制御することが可能です。

 

「マイクロパウダードライを用いた赤血球凍結乾燥技術の確立」
世界保健機関の報告によると、世界115カ国の妊産婦の死亡原因は分娩時の産科危機的出血が最多となっています(約27%)。医療資源が不十分な国や地域において輸血が適切に実施されていないことが原因の一端です。小規模医療機関における分娩が半数を占める日本においても同様に、産科危機的出血は妊産婦の死亡原因として最多となっています。これは、産科危機的出血の発生は予測困難であり、また、輸血製剤の長期保存が不可能であるため、小規模医療機関や医療過疎地域などでは輸血製剤を常備していない施設が多いからです。長期保存可能かつ冷蔵保存が不要な輸血製剤の開発が期待されています。そうした輸血製剤を目指し、主に棚式凍結乾燥法という手法を用いて赤血球の凍結乾燥保存が研究されていますが、凍結乾燥後の生存率が十分ではありません。マイクロパウダードライによる急速凍結を利用することで、凍結乾燥細胞の損傷が従来よりも抑制されると期待できます。また、マイクロパウダードライで凍結乾燥した赤血球は微粒子化しているため、比表面積が増加し従来よりも乾燥時間が短縮され、結果としてコスト削減に繋がります。加えて溶解速度が速いため緊急使用時大量の溶解に対応可能と見込まれます。

微粒子凍結乾燥赤血球の作製により、軽量化され可搬性が高く簡易かつ迅速に輸血を実施することが可能となります。また、保存期間が延長し、室温での保存が可能となり、結果的に小規模医療機関での産科危機的出血への円滑な対応が可能になると期待されます。

本テーマ、“微噴凍結乾燥装置を用いた赤血球凍結乾燥技術の確立”は大阪大学医学系研究科との共同研究テーマであり、大阪大学国際医工情報センターMEIグラントの支援を受けております。MEIグラント2022(医工情報領域研究支援制度) (osaka-u.ac.jp)

(左)µPD噴霧凍結乾燥赤血球粉体 (右上)µPD凍結乾燥赤血球粉体の光学顕微鏡観察画像 (右下) µPD凍結乾燥赤血球粉体のSEM観察画像
(左)µPD噴霧凍結乾燥赤血球粉体 (右上)µPD凍結乾燥赤血球粉体の光学顕微鏡観察画像 (右下) µPD凍結乾燥赤血球粉体のSEM観察画像