ULVAC - Think Beyond Vacuum
3_topimage.jpg

真空蒸着プロセスを用いたLi 金属負極の開発

リチウムイオン二次電池(Lithium-ion Battery : LiB)は,スマートフォン,ドローン,電気自動車(Electric Vehicle : EV)といった幅広い用途に適用され,市場規模は急速に拡大することが予想されている。特に自動車市場においては,欧州のEuro7 をはじめとする各主要国での排ガス規制の高まりや米国加州のZero Emission Vehicle(ZEV)規制強化,中国のNew Energy Vehicle( NEV)規制の動きを受け,従来の化石燃料を用いたエンジン技術ではこれらの規制をクリアすることが困難である。そのため,EV やプラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Vehicle : PHV,PHEV)の普及に各自動車メーカーは舵切りを始めている1)。 シンクタンクの調査によると2040 年にはEV/ PHV の世界販売台数が6000 万台に上るという予測があり2),それに伴って電池容量の需要も急増すると言われている。従って,生産設備の増強や大容量の電池開発が急務であり,その実用化に向け各電池メーカーがしのぎを削っている。 (※この記事は、2019年9月発行のテクニカルジャーナルMo.83に掲載されたものです。) LiB における負極 現行LiB とLi 金属負極を用いた次世代LiB LiB は正極,負極,セパレータがFig.1 のように重ねられた状態で電解液に浸されている構造である。前述のように電池容量を向上させるために,各部材の材料や製法に関する開発が進められている。現在,負極はグラファイト塗工膜が用いられ,その理論容量密度は370mAh/g である。そのグラファイト負極を容量密度の大きい材料に変更することで,大容量化が図れる3)。 特に,3860mAh/g の理論容量密度を持つLi 金属負極に置き換えることが理想的と考えられ,次世代の負極材料の一つとして注目されている。 圧延Li 箔を用いた負極の課題 Li 金属は容量にとって理想的な系であるが,安全性と寿命の観点で課題がある。これらは,充放電反応をくり返した際に生じるデンドライトと呼ばれる針状にLi 金属が析出する問題4)が原因と考えられる。このデンドライトが成長し続けることで,正極と負極の短絡を引き起こし,発火等の原因となる。 またFig.2 に示すように,成長過程において脱落したデッドLi という充放電に寄与しないLi が生じ,電池寿命の点で課題が残されている5)。デンドライトは充電時の負極に生じる電流集中が原因と言われており6),Li 表面を平坦にし,かつ均一な表面被膜を形成することで電流分布を改善し,抑制することができると考えられる。現在,Li 金属負極として一般的に用いられる圧延プロセスにより作製したLi 箔は,圧延ローラーの表面粗度,プロセス雰囲気といった観点から前述の課題を解決できていないと考えられる。筆者らはこれらの課題を解決する手法として,表面平滑性に優れ,雰囲気制御ができる真空蒸着プロセスに着目した。さらに,現行の量産塗工ラインに適用することも視野に入れ,巻取蒸着法を選択し,Li 金属負極の量産化に向け開発を行っている。 記事の続きは下記URLよりアルバックテクニカルジャーナルに ユーザ登録するとご覧いただけます。 https://www.ulvac.co.jp/r_d/technical_journal/tj83j/ 文 献 1) みずほ銀行産業調査部 : Mizuho Industry Focus 205, 11(2018).2) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 : focus NEDO 69, 9(2018).3) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 : NEDO 二次電池技術開発ロードマップ 2013(Battery RM2013), 10(2013)4) 電気化学会 電池技術委員会編, "電池ハンドブック(" オーム社, 2010)p.58.5) Xin-Bing Cheng, Rui Zhang, Chen-Zi Zhao, and Qiang Zhang : Chemical Reviews, 117, 10406(2017).6) Kiyoshi Kanamura, Naohiro Kobori, and Hirokazu Munakata : BLIX, Symposium on Energy Storage, San Jose(2017), p.6
TOP-1.jpg

物質の表面分析は真空中でこそ可能となる Vol.24

真空ひばりの真空教室 Vol.24 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 物質の表面分析は真空中でこそ可能となる これまで、いろいろな製品やデバイスがどのように真空を利用してつくられているのかをお話してきましたが、この教室の最後に、真空を応用して物質の固体表面を分析する方法について、お話したいと思います。低速荷電粒子(電子イオン)を分析に用いると、固体の表面だけの情報を得ることができます。たとえば、固体試料を真空中に置いてイオンをぶつけると、最表面の原子・分子が真空中に飛び出します。そう、スパッタリング現象です。 こうして表面から出てきた原子や分子の一部はイオン化していて、このイオンの質量と数を計測することによって、固体表面の原子・分子構成を知ることができるんです。この手法は、SIMS(二次イオン質量分析法)と呼ばれ、半導体産業を始めとする多くの産業分野で用いられています。 表面に刺激を与えて飛び出した電子のエネルギーを計測 表面分析は、表面の原子・分子に与える刺激(プローブ)と、計測する荷電粒子の組み合わせによって、何十種類もの手法があります。表面分析法としてはSIMSのほかに、X線を照射して出てきた電子の運動エネルギーを計測する手法(X線電子分光法 : XPSまたはESCA)や電子を照射して出てきた電子の運動エネルギーを計測する手法(オージェ電子分光法: AES)などが一般的によく使われています。 AESは、試料に電子を当てることで出てくる電子を分析するものです。原子核のまわりの電子に電子を当てて空席にすると、外側の軌道を回る電子がそこに落ちて、そのときにX線を出さずに、そのエネルギーによって電子が飛び出すことがあるため、その飛び出した電子を分析することで元素の種類が特定できるんです。そして電子の代わりにX線を当てて、出てきた電子の運動エネルギーを計測するのがXPSです。 表面分析法は、とても多くの産業・科学研究分野において、新しい特性や機能を備えた物質の研究開発・品質管理に欠くことのできない手法として、長い間ずっと進歩を続けてきましたし、これからも必要不可欠なものなんです。 以上で私の「真空教室」はひとまず終わりです。長い間、私の拙い講義にお付き合いいただき、ありがとうございました。 用語解説原子物質の基本的な構成要素で、原子核と電子とから構成されています。自然に存在する物質は92種類の原子からなりますが、人工的につくられる寿命の短い原子十数種類の存在が確認されている。 アルバックホームページ
TOP-1.jpg

「蒸着重合」を活用した魚釣りのルアー Vol.23

真空ひばりの真空教室 Vol.23 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 魚釣りで使う道具「ルアー」も真空内の蒸着重合を応用してつくられている 「えっ、こんなものも真空と関わりがあるの?」と思ってしまうくらい、意外なものに真空技術が使われている、というのが今回のお話です。いろんなアウトドアスポーツの中で、魚釣りを楽しむ人もたくさんいますが、気軽にできて人気が高いのがルアー釣りです。ルアーは疑似餌のことで、魚に似せた形の金属にめっきや塗装を施したものが使われています。 ルアーにライン(釣り糸)を結んで投げて、リールでラインを巻き取ると、ルアーは水圧を受けてさまざまな動きをします。ただの金属片やプラスチック製のルアーが、まるで小魚のように泳いだりきらめいたりするため、これを見た魚が餌だと思ったり、敵だと錯覚したりして反射的に食いついてしまうんですって。古くから親しまれてきたこのルアーで、成膜法を応用した製品があります。表面に「蒸着重合」という方法で皮膜をつけるもので、角度によって色合いが変化するホログラムカラーが魚の気を引くようです。 基板上でモノマーを重合させる蒸着重合 蒸着重合とは、真空中で2種類のモノマーを同時に加熱して蒸発させ、基板上で重合反応をさせてから、高分子ポリマー膜として成膜する方法です。ルアーでは、無水ピロメリト酸オキシジアニリンの2つの原料モノマーを使いますが、従来の方法ではこれらをまず、重合反応させてポリマーにしてから基板に塗布していました。これに対して蒸着重合法は、真空内で別々に蒸発させた基板表面で重合反応を起こさせるため、薄膜の生成が可能となりました。その結果、ポリイミドやポリアミド、ポリ尿素などの樹脂を数nmから100μmまでの範囲で成膜できます。 蒸着重合法は、1984年に新しい機能性高分子成膜法として開発されました。成膜された高分子膜は、絶縁膜・断熱膜・保護膜などの機能性膜として利用され、すでにセンサやモーターコア、医療機器への応用が実用化されています。 ルアーへは、成膜面のもつグラディエーション性とホログラフィー性から応用されたもので、真空技術は最先端のデバイス製造だけでなく、こうした日用スポーツ品へも広がりを見せているんですね。 用語解説モノマー/ポリマー 同じ種類の小さな分子が互いに多数結合して巨大な高分子となるとき、小さい分子をモノマー(単量体)、生成した高分子をポリマー(重合体)という。 アルバックホームページ
iStock-584209540-e1501059065844.jpg

"ソフト"コミュニケーションで世界を結ぶ

世代や国境を越えて人々に潤いある笑顔と癒しの食文化を提供日世株式会社(本社 大阪府茨木市) 突然ですが、甘いものはお好きですか? たとえばソフトクリームのあるシーンとは、どんな場面でしょうか? 日世株式会社 執行役員 茨田貢司氏 今年70周年を迎えたソフトクリーム総合メーカーの日世株式会社(以下、日世)は、アンケート調査を行い「そこには必ず笑顔がうまれる」ということをあらためて認識したとのこと。創業時からの「戦後の日本を元気にしたい、日本人に新しい文化を、安らぎを送りたい、作りたてのソフトクリームを手渡しすることによってお客様とのコミュニケーションがとれる」という想いを持ち続けています。今回の「暮らしとアルバック」は、東京支店(東京都品川区)にお邪魔し、執行役員の茨田貢司氏にお話を伺いました。 *本稿では製品名等の登録商標の表記は割愛しています。(※この記事は、2017年7月発行の 広報誌No.67に掲載されたもので、内容は取材時のものです。) 進化する日世 ......デザート・フードの世界をより豊かに、より広く...... ソフトクリームを中心に、豊かなデザート・フードの世界を創造する日世。美味しさが、日本と世界をひとつにするという理念から、技術や情報を広く海外に求め、時代にふさわしい味を提案し続けてきました。その取り組みは、新たな商品を生むとともに、今日も広大なフィールドを開拓しています。 「作りたて」が重要ソフトクリームの意外なルーツコーンはワッフルが始まり 「NISSEI.OVEN.FACTORY」ブランドのコーン「チュイル」 そもそも「ソフトクリーム」は日世創業者の田中穣治氏が命名した和製英語です。英語で正確には「Soft serve icecream」というそうです。中国にあったミルクシャーベットの製法が、シルクロードを通ってヨーロッパに伝わり、アメリカへと渡りました。現在のような姿になったのには、このような逸話があります。1904年アメリカ・セントルイス万国博会場でアイスクリーム屋とワッフル屋が隣り合わせで出展したときのこと。当時は紙皿に乗せて売られていましたが、猛暑で人気となり紙皿の在庫がなくなってしまいました。そこで隣の店のワッフルを円錐(コーン)状に巻いて使い、これが定着しました。コーンはワッフルが始まりなのですね。そんな「アイスクリームの作りたてを提供したい」という想いと、冷凍技術の発展により、アメリカで「オートマティック・ソフト・サーブマシン」がうまれました。ソフトクリームは、フリーザーとも呼ばれる製造機の中で材料が撹拌され空気を含むので、口当りが滑らかになります。ソフトクリームの製品温度がマイナス5℃程度なのに対し、アイスクリームは柔らかいクリーム状のものをマイナス30℃以下で急速に固めており、お店ではマイナス18℃以下で売られています。ソフトクリームは「出来たてかどうか」が、冷やし固めたアイスクリームと違う点なのです。 1951年 日本に初めてソフトクリームを紹介7月3日は「ソフトクリームの日」 1947年に日系二世の田中穣治氏が「株式会社二世商会」を設立し、後に現在の日世となりました。当時、米兵からソフトクリームの存在を知り、日本に広めたいとアメリカからフリーザーを10台購入しました。1951年7月3日に神宮外苑で開催されたアメリカ独立記念イベントでソフトクリームが初めて紹介され、爆発的人気となりました。デパートや喫茶店で販売を開始し、当時はかけそば1杯15円に対しソフトクリームはなんと50円!かなりの高級スイーツですね。1954年日本で公開された映画「ローマの休日」でヒロインのオードリー・ヘップバーンがスペイン広場でジェラートを食べるシーンの影響もあり第一次ソフトクリームブームが到来しました。はじめはコーンを輸入していましたが、大阪工場を開設し自社生産を始めます。1963年にはフリーザーも国産化し、材料となるソフトクリームミックスの生産を開始しました。さらに第二次ソフトクリームブームの到来となったのが、1970年大阪万国博覧会での大ヒットです。1990年には、初めて日本にソフトクリームが紹介されたことを記念して、7月3日が「ソフトクリームの日」に制定されました。 ソフトクリームが出来るまでフリーザーやコーンにアルバックの技術が活躍 図1 ソフトクリームフリーザーのしくみ ソフトクリームは、注文を受けてから、フリーザーからコーンカップなどへ直接盛りつけ、出来たてを食べることができます。ソフトクリームが作られるフリーザーの原理は次の通りです(図1)。タンクに原料となるミックスを入れ、それを冷やすためコンプレッサーで冷媒ガスに圧力をかけてウォーターコンデンサーに通し、冷媒ガスを気体から液体に変えます。液体になった冷媒ガスを一気に噴射して再度、気体に変える時に冷たくなる性質を使い原料撹拌室を冷やします。ミックスは撹拌することで空気を含んで、口当り滑らかな状態でコーンに盛り付けられて完成です。最後は冷媒ガスがコンプレッサーに戻ります。モードを切り替えお店で毎日フリーザーを加熱殺菌するためにもこの冷媒ガスが使われています。冷媒ガスを全密閉型で使用しているのは日世の特長です。またこれら一連のフリーザーの動作はコンピューター制御されています。このようにソフトクリームフリーザーは、「販売機」ではなく「製造機」であり、ソフトクリームを目の前にして笑顔になったお客様の身近な存在でもあるのです。日世ではこのフリーザーも自社で製造しています。フリーザーが日世高槻工場(大阪府)で製造され、洗浄などメンテナンスをする際、この冷媒ガスを充填するというまさにマシンに命を吹き込む工程で、アルバックの真空ポンプが活躍しています。2016年10月に操作性と管理機能を向上させた新世代ソフトクリームフリーザーCIシリーズを開発し販売を開始しました。運転記録(データロギング)が可能なシステムを導入し、衛生管理を強化するHACCP(ハサップ:食品衛生管理システム:危害分析重要管理点)に対応しています。さらに、東松山工場(埼玉県)では、「NISSEI OVEN FACTORY」ブランドのコーン「チュイル」生産設備(成形金型)にも、アルバックの表面処理技術が活かされています。 「特色あるNo.1をめざす」が原点絆を感じる幸福感「Smile Soft Project」 日世は、コーン、ソフトサーブミックス、フリーザー、さらにはトッピング商品など関連アイテムを自社生産し、お店づくりのバックアップまで、トータルに展開しています。ソフトクリーム総合メーカーのトップでありながら、常に挑戦し続けています。ソフトクリームのルーツは海外ですが、バラエティに富んだ味や、コーンの豊富な種類など、特色あるフレーバーにより今や日本オリジナルのものとなっています。「ご当地ソフト」では、観光地など日本全国の名産品を使った味のソフトクリームが豊富にあります。生産地域が特定された国産果実だけを使用した「JAPAN PREMIUM」は、「フルーツそのまま」をコンセプトにしたもので、期間限定で福岡県産イチゴの「あまおう」や宮崎県産マンゴー、岡山県産の白桃、山形県産のラ・フランスなどがあります。日世は国産農産物の消費拡大により食料自給率の向上を実現するための「FOOD ACTION NIPPON」推進パートナーです。また、お客様のソフトクリームに対する価値観を知るため1,000人に意識調査を行ったところ、「みんなが好きな味」「家では食べられない少し特別なもの」「親しい誰かと食べるもの」というイメージがあることが分かりました。そこで日世は「絆を感じる幸福感」をソフトクリームの価値と考え、日本全国に「笑顔の絆」を広げようと「Smile Soft Project ココロもとけあうソフトクリーム」という活動をしています。「キッザニア東京」「キッザニア甲子園」に「ソフトクリームショップ」パビリオンを出展しています。楽しく美味しい体験を通して、こども達に夢のある製品をお届けする喜びを伝えています。直営のパイロットショップを大阪梅田と東京渋谷に展開して、お客様との絆を感じるお店づくりをしています。さらに東日本大震災の復興支援では、「日世ソフトドリームカー」が被災地を訪問し皆さんに心を込めたソフトクリームを食べていただいたり、観光地での無料提供による募金活動を行いました。フルーツ事業でも、加工用として仙台のイチゴを適正価格で仕入れ、利益を生産地に戻す取り組みをしました。またWebサイトではクイズに答えてプレゼントが当たるキャンペーンや、日世商品を使って家庭でも簡単にデザートが作れるレシピを紹介しています。是非ご覧ください。確かにソフトクリームはなくても生きていけるものではありますが、これからも日世は、創業者の「日本を元気にしたい」「日本に新しい文化を伝えたい」「暮らしを豊かに、安らぎを届けたい」という熱い想いを後世にも伝えていきます。自社生産のコーンを「繁忙期でも作りだめしない」という姿勢にもその想いが表れています。独自の技術開発によって安心・安全でより良い商品の提供に努めてソフトクリーム総合メーカーとして世界中に「笑顔の絆」を広げていくことでしょう。 ソフトクリーム総合メーカーの日世株式会社について詳しく知りたい方はこちら アルバックの真空ポンプはこちら
TOP-1.jpg

空間から気体分子を吸い出すことで 「真空」をつくることができる!? Vol. 2

真空ひばりの真空教室 Vol. 2 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 空間から気体分子を吸い出すことで「真空」をつくることができる!? Vol.1では、真空について「空間に何もない状態ではない」「人が真空ポンプを使って作り出した低圧状態である」というお話をしましたが、では、「空気は何でできているのか」知っていますか? 空気の中に一番たくさん含まれているのが、窒素と呼ばれるガスで約78%。 次が酸素で約21%。もちろん酸素は、私たち人間をはじめ、生き物が生きていくために大切なものですね。その他には約0.93%のアルゴンなどで構成されています。 また、量は多くありませんが水蒸気や二酸化炭素、自動車の排気ガス、あるいは私たちが匂いとして感じる有機化合物など実際の空気にはとてもたくさんの物質が混ざっています。私たちの周りにある気体は、このような物質のとても小さな分子が、高速でさまざまな方向へ動き回っている状態としてイメージすることができます。私たちはそれらのたくさんの分子の集まりを空気として感じているんです。 空気中の気体分子を真空ポンプなどで吸い上げてあげることで、容器の中の気体分子の個数が少ない状態、つまり真空を人工的に作り出すことができるんです。 ちなみに、このことをもとに科学的に気体の性質を議論する学問を「気体分子運動論」といいます。 そして分子の数がとても多い場合、分子全体を統計的に観察することが可能になります。これは「統計力学」として知られ、気体が関係するさまざまな現象が説明できます。 大気圧に逆らって「真空」をつくることは困難 私たちは、昔から気体について、このような現象や知識を理解していたわけではありません。 大気の押す力、「圧力」は意外に大きく、1㎡の平面に約10t(10,000kg)、ダンプカーの積載量分くらいの力がかかります。 この大気圧に逆らって真空状態をつくって維持するのは大変なことです。真空を作り出す方法や道具がなかった頃は、アリストテレスが「自然は真空を嫌う」と考えたのも当然かもしれませんね。 技術が進んだ現在でも、気体分子がまったくない状態をつくることは、とても難しいことなんです。 用語解説 気圧 気圧とは大気の圧力のこと。単位面積の上に大気の上限まで鉛直にのびた気柱の重さに等しくなる。そのため地表より高い所にいくほど、上部の気柱が短くなるので気圧は低くなる。
TOP-1.jpg

空間に何もない状態が「真空」ではないって、知ってた? Vol.1

真空ひばりの真空教室 Vol.1 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 空間に何もない状態が「真空」ではないって、知ってた? 真空は、どのような状態をいうのかわかりますか?辞書では、「空気などの物質がまったくない空間」「何もない状態」っていうことになっていますが、では「まったく何もない空間」とはどのようなものなのでしょうか? 真空という概念は、意外に古くからあるんです。古代ギリシャのデモクリトスという名前の自然哲学者は、「原子(アトモス)」が真空という空虚な宇宙空間の中を運動していて、目に見えないくらい小さなさまざまな形と大きさをもったアトモスの運動の仕方で、いろいろな現象を説明できると唱えています。 これに対して、もう一人の哲学者、アリストテレスは、「自然は真空を嫌う」という「真空嫌悪説」を唱え、デモクリトスの考えに反対したことは有名な話です。知ってた? 「真にまったく何もない空間」を理解することの難しさは、昔も今も変わらないということかも知れませんね。 ところで、真空技術における真空とは、このように難しい話ではないんです。日本工業規格(JIS)では、「真空とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態で、圧力そのものではない」と定義しています。 感覚的に理解しやすい「減圧」や「低圧」という言葉を使うと、「大気より減圧された低圧状態が真空である」と定義することもできます。つまり、真空技術における真空とは、まったく何もない状態ではなく、「大気中の物質がある程度残留している低圧状態のことをいう」ということになります。 でも、そうなると混乱すると思うので、少しだけわかりやすく説明します。例えばエベレストなどの高山になると高いところではかなり空気が薄く、気圧は地表の3分の1しかない低圧状態にあるわけですが、普通は真空状態にあるとはいいませんよね。これはJISでいう「特定の空間」ではないからで、「真空」=「低圧」ではないんです。「真空」と「技術」が組み合わさった「真空技術」では、人が真空ポンプを使って作り出した低圧状態を「真空」であると考えることにしているんです。 だから、「真空とは空間に何もない状態ではない」ということ、わかりましたか? 用語解説 日本工業規格(JIS) 1949年に制定・施行された工業標準化法に基づいて、日本工業標準調査会の審議を経て、経済産業大臣、国土交通大臣など主務大臣が定める国家規格。
d15acfd99b4ac918164fd872622deae9-e1484783650903-768x449.jpg

アナログレコードの高音質・高品質化を実現

スパッタリング膜でPVCレコードの高品質・高音質化を実現 真空薄膜技術を駆使し、摩耗性、熱伝導性、静電気発生の弱点克服 アナログレコードは、1980 年代初頭に登場したデジタルCD によって、それまで長く続いた主役の座から一気に駆逐され、わずか数年で音楽ソフト市場の舞台の隅に置かれることになった。かといって、完全になくなったわけではなく、一部のオーディオマニア向けに細々と生産を続けてきた。近年の傾向として、CD で育った若者層を中心にアナログレコードの需要が増大してきている。その大きな理由は、CD では味わえないレコードジャケットのダイナミックさ、オーディオセットの高性能化によるアナログ独特の高音質によるものなどであろう。しかし、音響製品の高性能化は進んでいるものの、1940 年代後半に登場したポリ塩化ビニール(PVC)製LP レコードは改質・改善のない当時のままである。今回の「暮らしとアルバック」は、そのレコード盤の弱点を真空技術で克服し高品質・高音質化を実現したULVAC TAIWAN INC. の「Prolayer」レコードにスポットをあてた。取材協力:ULVAC TAIWAN INC.(優貝克科技股份有限公司) 真空技術が貢献する「Prolayer」レコード ULVAC TAIWAN INC.(本社:台湾新竹市、以下UTI)は1981年に設立され、アルバックのグローバル生産拠点の一つとして活動しているグループの海外中核企業である。UTIの本業は、主に半導体や液晶テレビなどの電子機器産業向けに真空装置の製造やフィールドサポートを行っているが、このほどユニークな活動として、スパッタリング装置という薄膜形成装置を使って「Prolayer」レコードというネーミングで画期的なスパッタリング膜レコードを開発した。 スパッタリング膜による「Prolayer」レコードとジャケット 世界的に再注目されているアナログレコード アナログレコードが最初に登場したのは78回転レコード(シェラック盤)で、収録時間は片面5分程度だった。次いで高密度のポリ塩化ビニール(polyvinyl chloride :PVC)を用いたことにより、音源である溝幅を極端に狭くすることが可能となり、片面30分以上という長時間収録のLP(Long Play)レコードが主流となった。LP レコードは、1940年代後半に開発され、1950年代から従来の78回転レコードに代わり、1980年初頭にデジタルCDが登場するまでの半世紀にわたって、常に音楽メディアの中心にあった。1990年代に入り、アナログレコードはいったん廃れたかに見えたが、2000年代半ば頃から生産枚数は徐々に上昇しつづけ、一部のオーディオマニアはもちろんのこと、若者層がけん引役となって再び人気を盛り返そうとしている。 世界のアナログレコードの売上高推移 旧態依然のアナログレコードにメス スパッタリング装置を背景に左からUTI 副総経理 呉 東嶸、 開発担当の陳 江耀、陳 俐燕、副総経理 魏 雲祥 アナログレコード時代からデジタルCD 時代を通して、レコードプレーヤーやCD プレーヤー、アンプ、スピーカーなどのオーディオ電子機器は、めざましいほどの進歩を遂げて高音質化に貢献しているが、PVC レコードは材質や製造工程などは旧態依然という状況で、オーディオ機器ほどの発展を遂げていないのが現状である。ではレコードは完成された商品かというと、決してそうではない。むしろ問題点の塊といっていい。その問題点とは、CDとは異なりレコード針で溝をトレースして音を出すため、針の接触面で発熱して組成変化が生じ、いつしか盤面の溝が傷つき、長時間使用に耐えられなくなることである。さらに決定的なのは、PVCという材質上の問題で、静電気が生じやすく、それが原因となってゴミやほこりが盤面に付着し、せっかくの心地よい音楽が雑音となることである。 スパッタリング膜採用によりレコードの問題点解決 オーディオ好きでもあるUTI 副総経理の魏雲祥は、レコード盤の欠点である「摩耗性に劣る」、「熱伝導性がない」、「静電気が生じやすい」、というこれらの問題点を真空技術で解決できないものか、と考えていた。そこで閃いたのが、レコード盤面上へ真空薄膜を施すことであった。真空を利用してつくられる薄膜にはいろいろな方法があるが、代表的なものとして、比較的手軽に利用でき、応用範囲が広い「蒸着法」、均質な大面積に適した「スパッタリング法」、気体にして高機能な化合物薄膜をつくる「気相成長法」の3つがあげられる。いろいろな試行錯誤の末、それを解決したのがスパッタリング装置によるモリブデンのスパッタリング膜であった。 「TAA 台北円山オーディオショー」で「Prolayer」レコードを紹介するUTI 副総経理 呉 東嶸 このスパッタリング膜は、PVC レコードと比べると融点で2,500℃、表面硬度は約30倍、熱伝導率は約1,300倍、それぞれ向上した。また滑らかな表面であるため摩擦力は半分以下になり、針圧による溝へのダメージが極端に下がりレコードの長寿命化にも貢献することが実証された。さらに、ナノレベルの薄膜であるため溝面の膜厚による音の再生劣化もないことも分かった。2015年春頃、この構想を高雄電気機器産業協会 主任委員の黄裕昌氏に持ちかけたところ、共同開発することとなった。2015年8月には「TAA 台北円山オーディオショー」に出品し、オーディオ評論家を招いて、台湾の著名ピアニスト顔華容さんによるチャイコフスキーのピアノ曲の生演奏、同曲の従来のPVC レコード、スパッタリング膜レコードによる「聴き比べイベント」を開催したところ、スパッタリング膜レコードは、オーディオ評論家から望外ともいえる高い評価を得た。スパッタリング膜レコードは商標申請中で、スパッタリング膜の量産化もほぼ目途が立った。今後、「Prolayer」レコードは、全世界デビューに向けてのターゲットとなるアーティストやアルバム楽曲の選定作業など拡販に向けて具体的にアプローチを図っていく予定である。 スパッタリング成膜方法 基板とターゲットを対向させ、数分の1Pa 〜数Pa 程度のアルゴンガス雰囲気の中でターゲットに数kV の負の高圧電圧をかけて放電させる。するとプラズマが発生して、アルゴン原子はプラスイオンとなってターゲットに衝突。叩き出された原子が基板上に堆積薄膜を形成する。この薄膜形成をスパッタリング法と呼ぶ。 出典元:ULVAC広報誌https://www.ulvac.co.jp/news/prm66_201604/ ULVAC TAIWAN INC.優貝克科技股份有限公司http://www.ulvac.com.tw(中国語繁体字サイト)

このサイトでは、お客様の利便性や利用状況の把握などのためにCookieを使用してアクセスデータを取得・利用しています。Cookieの使用に同意する場合は、
「同意しました」をクリックしてください。「個人情報保護方針」「Cookie Policy」をご確認ください。