真空教室 - ULVAC
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物質の表面分析は真空中でこそ可能となる Vol.24

真空ひばりの真空教室 Vol.24 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 物質の表面分析は真空中でこそ可能となる これまで、いろいろな製品やデバイスがどのように真空を利用してつくられているのかをお話してきましたが、この教室の最後に、真空を応用して物質の固体表面を分析する方法について、お話したいと思います。低速荷電粒子(電子イオン)を分析に用いると、固体の表面だけの情報を得ることができます。たとえば、固体試料を真空中に置いてイオンをぶつけると、最表面の原子・分子が真空中に飛び出します。そう、スパッタリング現象です。 こうして表面から出てきた原子や分子の一部はイオン化していて、このイオンの質量と数を計測することによって、固体表面の原子・分子構成を知ることができるんです。この手法は、SIMS(二次イオン質量分析法)と呼ばれ、半導体産業を始めとする多くの産業分野で用いられています。 表面に刺激を与えて飛び出した電子のエネルギーを計測 表面分析は、表面の原子・分子に与える刺激(プローブ)と、計測する荷電粒子の組み合わせによって、何十種類もの手法があります。表面分析法としてはSIMSのほかに、X線を照射して出てきた電子の運動エネルギーを計測する手法(X線電子分光法 : XPSまたはESCA)や電子を照射して出てきた電子の運動エネルギーを計測する手法(オージェ電子分光法: AES)などが一般的によく使われています。 AESは、試料に電子を当てることで出てくる電子を分析するものです。原子核のまわりの電子に電子を当てて空席にすると、外側の軌道を回る電子がそこに落ちて、そのときにX線を出さずに、そのエネルギーによって電子が飛び出すことがあるため、その飛び出した電子を分析することで元素の種類が特定できるんです。そして電子の代わりにX線を当てて、出てきた電子の運動エネルギーを計測するのがXPSです。 表面分析法は、とても多くの産業・科学研究分野において、新しい特性や機能を備えた物質の研究開発・品質管理に欠くことのできない手法として、長い間ずっと進歩を続けてきましたし、これからも必要不可欠なものなんです。 以上で私の「真空教室」はひとまず終わりです。長い間、私の拙い講義にお付き合いいただき、ありがとうございました。 用語解説原子物質の基本的な構成要素で、原子核と電子とから構成されています。自然に存在する物質は92種類の原子からなりますが、人工的につくられる寿命の短い原子十数種類の存在が確認されている。 アルバックホームページ
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「蒸着重合」を活用した魚釣りのルアー Vol.23

真空ひばりの真空教室 Vol.23 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 魚釣りで使う道具「ルアー」も真空内の蒸着重合を応用してつくられている 「えっ、こんなものも真空と関わりがあるの?」と思ってしまうくらい、意外なものに真空技術が使われている、というのが今回のお話です。いろんなアウトドアスポーツの中で、魚釣りを楽しむ人もたくさんいますが、気軽にできて人気が高いのがルアー釣りです。ルアーは疑似餌のことで、魚に似せた形の金属にめっきや塗装を施したものが使われています。 ルアーにライン(釣り糸)を結んで投げて、リールでラインを巻き取ると、ルアーは水圧を受けてさまざまな動きをします。ただの金属片やプラスチック製のルアーが、まるで小魚のように泳いだりきらめいたりするため、これを見た魚が餌だと思ったり、敵だと錯覚したりして反射的に食いついてしまうんですって。古くから親しまれてきたこのルアーで、成膜法を応用した製品があります。表面に「蒸着重合」という方法で皮膜をつけるもので、角度によって色合いが変化するホログラムカラーが魚の気を引くようです。 基板上でモノマーを重合させる蒸着重合 蒸着重合とは、真空中で2種類のモノマーを同時に加熱して蒸発させ、基板上で重合反応をさせてから、高分子ポリマー膜として成膜する方法です。ルアーでは、無水ピロメリト酸オキシジアニリンの2つの原料モノマーを使いますが、従来の方法ではこれらをまず、重合反応させてポリマーにしてから基板に塗布していました。これに対して蒸着重合法は、真空内で別々に蒸発させた基板表面で重合反応を起こさせるため、薄膜の生成が可能となりました。その結果、ポリイミドやポリアミド、ポリ尿素などの樹脂を数nmから100μmまでの範囲で成膜できます。 蒸着重合法は、1984年に新しい機能性高分子成膜法として開発されました。成膜された高分子膜は、絶縁膜・断熱膜・保護膜などの機能性膜として利用され、すでにセンサやモーターコア、医療機器への応用が実用化されています。 ルアーへは、成膜面のもつグラディエーション性とホログラフィー性から応用されたもので、真空技術は最先端のデバイス製造だけでなく、こうした日用スポーツ品へも広がりを見せているんですね。 用語解説モノマー/ポリマー 同じ種類の小さな分子が互いに多数結合して巨大な高分子となるとき、小さい分子をモノマー(単量体)、生成した高分子をポリマー(重合体)という。 アルバックホームページ
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ひげ剃りの刃にも利用されている真空内の硬質皮膜処理 Vol.22

真空ひばりの真空教室 Vol.22 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ ひげ剃りの刃の表面コーティングにも利用されている真空内での硬質皮膜処理 真空技術に支えられているものがたくさんあることは、これまでのお話で理解してもらえていると思いますが、今回は真空内での硬質皮膜処理のお話です。ホームセンターの工具売り場で売っているドリルなどの切削工具の中で、刃の部分に金色のコーティングが施されているものを見たことはありますか?このドリルの刃には、表面にTiN(窒化チタン)などの硬質皮膜が数ミクロンの厚さでコーティングされています。TiN膜は、硬くて耐摩擦性に優れた薄膜で、金属との密着性もよく、切削工具表面処理コーティングには適しています。 この硬質皮膜が施された工具は、無処理の工具に比べて寿命が数倍長くなるという特徴をもっているんです。硬質皮膜としては、TiNの他にもTiC(炭化チタン)、TiAIN(窒化チタンアルミ)などがあって、それぞれ硬度、摩擦係数、耐熱性の違いに応じて金型、自動車用部品、いろいろな装飾品などの表面処理コーティングに使われています。 そしてこれらの硬質皮膜の成膜には、イオンメッキとも呼ばれるイオンプレーティングによるものが多く用いられていますが、その他には、スパッタリング、CVD法などの手法も使ってコーティングされています。 ダイヤモンドのように堅いDLC(ダイヤモンドライクカーボン) もう一つ別のコーティングのお話をします。私はもちろん使うことはないけど、ひげ剃りの刃は、切れ味を良くするために、すごく薄くなっていますが、薄くなった分の耐久性を上げるために、刃先にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)がコーティングされているものがあります。 DLCは文字通りダイヤモンドのようなカーボンで、硬くて耐久性がよくて、表面がとても滑らかで潤滑性があります。ひげ剃りの刃は、ステンレス製で刃自体の切れ味はかなり鋭いので、そのままだと肌まで削ってしまいます。そこで刃先にDLCをコーティングすることで、深剃りしても肌にはやさしいひげ剃りができるんですって。 しかもDLCは金属ではないため、金属アレルギーのある人でも使用できるという特徴もあります。このDLCの成膜方法は、イオンプレーティング、スパッタリング、CVD法など、さまざまで、用途に応じて使い分けされています。 用語解説熱処理金属、半導体、セラミックスなどに必要な性質を与えるために、固体の状態で行う加熱と冷却の総称。基本的には焼き入れと焼きなましの2種類に分類される。 アルバックホームページ
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ICカードやRFIDタグは真空薄膜技術でつくられる Vol.21

真空ひばりの真空教室 Vol.21 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ ICカードやRFIDタグは真空薄膜技術でつくられる クレジットカードや銀行のATMカードなどに代表されるICカード。最近は電車を乗る際に使う交通系のカードもICカードですから、誰でも日々持ち歩くものになっています。今回は、そのICカードや商品タグなどに使われるRFIDタグにも、真空薄膜技術が使用されているというお話です。 ICカードとは、プラスチック板にICチップを組み込んだカードのことです。また、ICとは、集積回路(Integrated Circuits)の略で、複雑な電気回路を顕微鏡でしか見えないくらいの小さな世界に閉じ込めています。いっぽうRFIDタグは、超小型のマイクロチップと小型のアンテナによって構成されていて、マイクロチップに組み込まれた情報を無線で発信します。ICカードのように「カード」という形状にとらわれず、ラベルなどのいろいろな形に変えて使われています。 電波は微弱で到達範囲も短距離ですが、この技術は現在スーパーマーケットやコンビニエンスストアで見かけるバーコードに代わる次世代技術として期待されているんです。ICカードやRFIDタグに埋め込まれているIC(マイクロチップ)は、これまでここでご紹介したさまざまな機器に用いられていたデバイス製造と同じように、真空を利用した薄膜加工技術を使って製造されています。 ICカードやRFIDタグは、記憶容量が多い ICカードやRFIDタグが盛んに用いられている背景には、個人認証とセキュリティの問題があるんです。クレジットカードなどでは、暗証番号さえ知ってしまえば誰でも使うことができますが、ICチップを採用すると、より個人認証能力が高まって、安全性がアップします。そのためには、カードを使用することができるための、持ち主本人だけの情報の必要性が重要になります。その場合、本人だけの特徴、たとえば諮問や顔写真、瞳の虹彩などをカードの中に織り込むために、ICカードは重要に役割を果たします。まるでスパイ映画のようなことが、現実になってきたっていうことね。 用語解説 集積回路 通常はICと略され、2つ以上の回路素子のすべてが、一つの基板上、または基板内に組み込まれている回路のこと。 アルバックホームページ
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空間から気体分子を吸い出すことで 「真空」をつくることができる!? Vol. 2

真空ひばりの真空教室 Vol. 2 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 空間から気体分子を吸い出すことで「真空」をつくることができる!? Vol.1では、真空について「空間に何もない状態ではない」「人が真空ポンプを使って作り出した低圧状態である」というお話をしましたが、では、「空気は何でできているのか」知っていますか? 空気の中に一番たくさん含まれているのが、窒素と呼ばれるガスで約78%。 次が酸素で約21%。もちろん酸素は、私たち人間をはじめ、生き物が生きていくために大切なものですね。その他には約0.93%のアルゴンなどで構成されています。 また、量は多くありませんが水蒸気や二酸化炭素、自動車の排気ガス、あるいは私たちが匂いとして感じる有機化合物など実際の空気にはとてもたくさんの物質が混ざっています。私たちの周りにある気体は、このような物質のとても小さな分子が、高速でさまざまな方向へ動き回っている状態としてイメージすることができます。私たちはそれらのたくさんの分子の集まりを空気として感じているんです。 空気中の気体分子を真空ポンプなどで吸い上げてあげることで、容器の中の気体分子の個数が少ない状態、つまり真空を人工的に作り出すことができるんです。 ちなみに、このことをもとに科学的に気体の性質を議論する学問を「気体分子運動論」といいます。 そして分子の数がとても多い場合、分子全体を統計的に観察することが可能になります。これは「統計力学」として知られ、気体が関係するさまざまな現象が説明できます。 大気圧に逆らって「真空」をつくることは困難 私たちは、昔から気体について、このような現象や知識を理解していたわけではありません。 大気の押す力、「圧力」は意外に大きく、1㎡の平面に約10t(10,000kg)、ダンプカーの積載量分くらいの力がかかります。 この大気圧に逆らって真空状態をつくって維持するのは大変なことです。真空を作り出す方法や道具がなかった頃は、アリストテレスが「自然は真空を嫌う」と考えたのも当然かもしれませんね。 技術が進んだ現在でも、気体分子がまったくない状態をつくることは、とても難しいことなんです。 用語解説 気圧 気圧とは大気の圧力のこと。単位面積の上に大気の上限まで鉛直にのびた気柱の重さに等しくなる。そのため地表より高い所にいくほど、上部の気柱が短くなるので気圧は低くなる。
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空間に何もない状態が「真空」ではないって、知ってた? Vol.1

真空ひばりの真空教室 Vol.1 はじめまして! 真空(まそら)ひばりです。この教室で皆さんに「真空」のことをいろいろレクチャーしていきます。よろしくネ♪ 空間に何もない状態が「真空」ではないって、知ってた? 真空は、どのような状態をいうのかわかりますか?辞書では、「空気などの物質がまったくない空間」「何もない状態」っていうことになっていますが、では「まったく何もない空間」とはどのようなものなのでしょうか? 真空という概念は、意外に古くからあるんです。古代ギリシャのデモクリトスという名前の自然哲学者は、「原子(アトモス)」が真空という空虚な宇宙空間の中を運動していて、目に見えないくらい小さなさまざまな形と大きさをもったアトモスの運動の仕方で、いろいろな現象を説明できると唱えています。 これに対して、もう一人の哲学者、アリストテレスは、「自然は真空を嫌う」という「真空嫌悪説」を唱え、デモクリトスの考えに反対したことは有名な話です。知ってた? 「真にまったく何もない空間」を理解することの難しさは、昔も今も変わらないということかも知れませんね。 ところで、真空技術における真空とは、このように難しい話ではないんです。日本工業規格(JIS)では、「真空とは、通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態で、圧力そのものではない」と定義しています。 感覚的に理解しやすい「減圧」や「低圧」という言葉を使うと、「大気より減圧された低圧状態が真空である」と定義することもできます。つまり、真空技術における真空とは、まったく何もない状態ではなく、「大気中の物質がある程度残留している低圧状態のことをいう」ということになります。 でも、そうなると混乱すると思うので、少しだけわかりやすく説明します。例えばエベレストなどの高山になると高いところではかなり空気が薄く、気圧は地表の3分の1しかない低圧状態にあるわけですが、普通は真空状態にあるとはいいませんよね。これはJISでいう「特定の空間」ではないからで、「真空」=「低圧」ではないんです。「真空」と「技術」が組み合わさった「真空技術」では、人が真空ポンプを使って作り出した低圧状態を「真空」であると考えることにしているんです。 だから、「真空とは空間に何もない状態ではない」ということ、わかりましたか? 用語解説 日本工業規格(JIS) 1949年に制定・施行された工業標準化法に基づいて、日本工業標準調査会の審議を経て、経済産業大臣、国土交通大臣など主務大臣が定める国家規格。

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