技術はいつの時代も生き残れる – 由紀精密訪問 vol.2

大坪社長インタビュー

由紀精密の立て直しなどについて大坪社長にお話しして頂きました。

 

技術はいつの時代も生き残れる

大坪社長は次のように語ります。
大坪:世間の企業は伸びているのにうちは伸びているどころか、危機に瀕していたわけです。当時、私は中小の製造業を建て直すコンサル的な仕事もやっていましたので、自分の家の会社も建て直さないと、というのがきっかけです。これは私の中では一つのチャレンジでした。親がずっと続けてきた会社を継いで、ただ継続させていくことが目的で継いだのではありません。自分の力で新しい由紀精密として建て直したかった、という気持ちでした。まず下請けからの脱却ということで改善活動を行っていきました。

大坪社長は、由紀精密をそれまでの少品種・大量生産から多品種・少量生産の企業体質に切り替えていきます。それが高品質・高付加価値の製品を提供するビジネスモデルへの転換でした。

大坪:私の場合はマイナスからの出発でした。その一方で、昔から信頼性のある精密部品を作り続けていましたので、潜在的に技術力はもっているのだと思いました。ですから、全部を変えようとは思いませんでした。いままで培ってきた技術を生かして、“無くして変えるんじゃなくて、積み上げて変えていこう”と思いました。

次に由紀精密は開発部門を立ち上げ、受託製造加工だけではなく、設計から製造まで一貫して行えるようにします。その結果、航空宇宙、医療、自動車などの分野で顧客をつぎつぎに拡大していきます。

大坪:今後も“町工場”のコンセプトは変えたくありません。量産の仕事は、仕事があるからといって、それなりの設備が必要となりますし、それを運転するための人員も必要となります。景気の良いときは問題ないので

すが、一旦下がりだしたら、それを挽回するための仕事を獲得することは大変なことです。その意味でも、少量多品種、高付加価値を重視します。そのためには技術力が要求されますが……。

会社の規模の面では数千人という規模は考えていなくて、いま茅ヶ崎工場で20人、新横浜の開発部隊が8人、という陣容です。手のひらにのるほどの微細な精密部品に特化し、開発面では医療機器などのように生体向け、真空や超高温・超低温といった特殊環境向けのものなどに絞り込んでいます。とにかく技術力を高めていきたい。技術はいつの時代も確実に残っていきます。

魅力ある精密切削技術は永遠のもの

大坪:金属部品は機能があって、精度があって、美しいものだと思います。価値が凝縮されていると思います。どんな大きな機械でもどこかにキーとなるデバイス(部品)というものがあって、そこに技術を詰め込むわけですから、技術の密度が高いものです。知恵を凝縮してつくられる部品はほんとうによく考えてつくられています。

ある時期から一部では金属部品に代わって、樹脂やセラミックスなどに置き換わっていくわけですが、それはある意味で正常な進化だと受け止めています。当社が1990年代以降に苦しくなったのは樹脂部品の台頭でした。

そのなかで金属部品が生き残るところはまだまだあります。削ってつくる金属部品は金型が必要ありませんから、削り出しでつくる分野はなくならないと思います。新しい分野に挑戦するためには、品質にだけ囚われてしまって、仕事に対して柔軟性がなくなってしまっている傾向がありますので、新しいことに挑戦するには自由な発想で取り組まなければなりません。プロジェクトへの参加は大変刺激になりますし、技術力を高めるために、今後も積極的に取り組んでいこうと考えています。

【由紀精密の活動紹介:ユニークなプロジェクトへの参加】
【参考】由紀精密の参加プロジェクト

•「ライスマッピング」プロジェクト
ある日「大坪さん、お米を宙に浮かしてください」という依頼が舞い込みました。巨大プロジェクションマッピングの向こうを張って、5ミリにも満たない小さい、白いお米に日本を紹介する動画映像を写したいという極微の世界のプロジェクションマッピングの相談だったのです。お米に穴を空けて100分の2ミリという細いタングステンワイヤーをピーンと張って、宙に浮かして固定し、それをスクリーンにして画像を映し出そうという試みです。米粒の穴を空けるところを由紀精密の精密加工技術で貢献しています。

•東京薬科大学、JAXAとの「たんぽぽ計画」
「たんぽぽ計画」は、「生命は宇宙空間を移動するのではないか」というパンスペルミア仮説を検証するために、宇宙空間で地球を脱出する微生物の存在があるかどうかを検証する試みです。東京薬科大学やJAXAを中心に、エアロゲルを使いアミノ酸などの有機物を含む微粒子を宇宙空間で捕集したり、地球の微生物や有機物を宇宙環境下にさらし、生存可能かどうかを調査するという二つの検証を行うプロジェクトです。由紀精密はたんぽぽ実験装置「捕集パネル」のエアロゲルを組み込む構造体部分の製造を担当しました。

•多摩美術大学、東京大学の「衛星芸術」プロジェクト
「ARTSAT(衛星芸術プロジェクト)」は、多摩美術大学と東京大学の共同プロジェクトで、地球を周回する衛星や深宇宙に投入される宇宙機を「宇宙と地球をつなぐメディア」と捉え、衛星そのものや、そこから得られるデータを使ってさまざまな芸術実験を展開していくというプロジェクトです。多摩美術大学の教授との雑誌の対談企画がきっかけで声を掛けられました。

同プロジェクトの「DESPATCH」は、3Dプリンターで制作されたらせん状の造形部を有する、包絡域が約50cm角、重量約32kgの宇宙機で、2014年12月にH-IIAロケット(主衛星「はやぶさ2」)に相乗りする小型副ペイロード(宇宙機などの積載物)として打ち上げられました。由紀精密は構造部の設計・製造を担当しました。

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株式会社由紀精密
代表取締役 大坪正人(おおつぼ まさと)プロフィール

1975 年に茅ヶ崎に生まれる。東京大学大学院工学系研究科産業機械工学専攻修了後、 2000年インクスに入社し、技術開発に従事。 2005 年自ら立ち上げた世界最高速の金型工場により、ものづくり日本大賞経済産業大臣賞受賞。2006 年、父が経営する由紀精密入社、常務取締役として開発・技術営業業務に従事、現在に至る。

株式会社由紀精密の概要
事業内容:電気電子、電機機器部品、産業用機械部品、一般精密機械部品、医療機器、航空部品等、あらゆる産業の部品加工
従業員数:従業員数 約30人
所在地:〒253-0084 神奈川県茅ヶ崎市円蔵370
会社設立:1961年7月 *創業は1950年

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※この記事は、2017年7月に取材されたもので、内容は取材当時のものです。