ビッグデータをベースとする IoT、AI 社会に大いなる可能性が期待される 「トポロジカル絶縁体」とは

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富永淳二博士講演録〈抜粋版〉

富永先生の研究テーマである「相変化メモリ」はまさに到達点が次への新たな出発点ともいえるもので、現在も次世代相変化メモリとして「トポロジカル絶縁体」に取り組んでいる。この耳慣れない「トポロジー」とは何なのか、その理論を応用する「トポロジカル絶縁体」の可能性、利用分野を紹介する。
(この記事は、2018年11月21日開催特別講演「次世代相変化メモリ」(主催:アルバック販売株式会社)講演録から抜粋したものです)

2016 年のノーベル物理学賞はサウレス、ホールデン、コスタリッツの3名に授与された。この3名は、数学の幾何学理論の一つであるトポロジーの考え方を導入したもので、物質の基本的な性質にトポロジカルな状態が相転移することを発見した。まさに21 世紀に誕生した現代科学のトップをゆく最先端材料の開発で、今、世界中の研究者たちが大いなる可能性を求めて様々な研究合戦が繰り広げられている。その一つとして、内部では電気が流れないにもかかわらず、表面では電気が流れるという「トポロジカル絶縁体」の物質の研究が進められている。

富永:2010 年の秋、超格子型省エネルギー相変化メモリの論文を専門誌に投稿してそれが通ったのでほっとしていた矢先のことでした。2011 年の「3.11 大震災」で3 ~ 4 カ月間実験ができなかったので、もっぱら論文を読んでいました。私の扱っているSb2Te3 がトポロジカル絶縁体だと書いてあったのです。論文を読んでいるうちに時間反転対称性を壊すという表現が目にとまりました。 そこで磁場をかけてみることにしました。通常のGST の三元合金に磁石を近づけても何も変化しません。ところが私が開発した超格子の積層膜に磁石を近づけると一気にしきい値電圧が0.8V から2V に上がりました。磁石を外すともとに戻る。0.1 テスラぐらいの弱い磁石ですが、これを近づけるだけで抵抗値が2桁変わることがわかった。MRAM の変化量はもっと低い数値です。相変化はいままでの経験上、磁性は出ないと考えていました。この実験で、時間反転対称性を壊すと何か変化することがわかってきました。

2018 年11 月開催の特別講演で「次世代相変化メモリ」について語る富永博士(主催:アルバック販売株式会社)

トポロジカル絶縁体は、電子の状態(波動関数)が通常の絶縁体と異なり「ねじれている」という。このねじれによって物質の中身には電気が流れず、表面だけに電気が流れるという想像もつかない現象が確かめられた。

富永:Ge2Sb2Te5 の三元合金はねじれていないので普通の絶縁体です。つまり合金の中に2つの顔があるということです。一部は普通の絶縁体、もう一つは違う。 超格子はどうか。普通のトポロジカル絶縁体は面でしか電気伝導をもたないのですが、(GeTe)2 は普通の絶縁体で、Sb2Te3 はトポロジカル絶縁体です。この2つを繰り返し積層すると表面だけでなく界面に電気が流れるようになります。積層数を増やせばその分、界面数が増えるのでより二次元的な電流とスピン流を取り出せます。それも極低温でなく、室温の状態でできます。470K でちゃんと動きます。紙面の都合上、詳しくはご紹介できませんが、私の研究成果を論文で発表したところ、2017年には論文引用が300 件ほどありました。こういうものをつくる競争が世界中ではじまっています。
メモリにはいろいろあり、一番高速で動くのはCPU、SRAM、DRAMなどです。その下にNAND、光ディスク、ハードディスク(HD) などのストレージメモリがあります。DRAM とHD では処理スピードは3桁ほど違います。ビッグデータを扱うようになると、この桁数の違いは大きな問題になります。これを解消するために新しいストレージクラスメモリが登場することになります。それが相変化メモリなのです。

 

トポロジカル絶縁体超格子が応用される相変化メモリの大いなる可能性

  • 次世代相変化メモリは超格子型で格段の省エネ化が達成できる
  • 相変化はAI のチップに向いている
  •  DRAM を使わずにビッグデータを使って機械学習を行える
  •  ファンデルワールス結合型の超格子膜はスパッタリングでも作製可能
  •  GeTe/SbTe 超格子膜はトポロジカル絶縁体だ
  •  トポロジカル特性を上手く出現させれば将来はスピンメモリにも
  •  相変化メモリの進展はメモリを超えた…分野の応用が期待できる