ナノメタルインクを用いた配線形成技術とグラビアオフセット印刷による透明電極の形成

1.はじめに

最近のデバイス製造技術には,さらなる低コスト化,工程数の削減が要求されている.従来のデバイス製造においては,例えば,スパッタ等を用いて成膜した機能性薄膜をフォトリソグラフィー等により所望の形状に加工することでパターニングを行っている.この製造方法では,非常に高精度のパターンを形成することができるものの,不要な箇所の薄膜を除去するプロセスであるため材料の利用効率が低い.また,工程数が多く高コストになるため,少品種を大量に生産する製造プロセスである.一方,プリンテッドエレクトロニクスと呼ばれる印刷法は,不要な箇所の薄膜を除去するのではなく,必要な箇所のみに,所望のパターン形状をダイレクトに形成することが可能であり,材料の利用効率が高く工程数も少ないため,低コストで多品種を少量生産するのに非常に適した製造プロセスである.
プリンテッドエレクトロニクスで製造されるデバイスは,印刷に用いるインクやペースト等の特性に大きく影響される.例えば,金属配線パターンの形成には,金属ナノ粒子を溶媒に分散させたインクが用いられている.この金属ナノ粒子インクを用いて形成された配線は,低温の焼成でバルクに匹敵する導電性を発現するという優れた特徴を有している.本稿では,プリンテッドエレクトロニクスに適した金属ナノ粒子インク「ナノメタルインク」およびそれを用いて形成した微細グリッド透明電極の特性について報告する.

橋本夏樹*1・林茂雄*2・呉承俊*1・大沢正人*1
*1 Future Technology Research Laboratory, ULVAC, Inc., 5-9-6 Tohkohdai, Tsukuba, Ibaraki, 300-2635, Japan
*2 Future Technology Research Laboratory, ULVAC, Inc., 516 Yokota, Sanmu, Chiba, 289-1226,Japan

(※この記事は、2017年9月発行のテクニカルジャーナルMo.81に掲載されたもので、内容は取材時のものです。)

2.ナノメタルインク

2.1  導電膜形成に用いる金属ナノ粒子と分散剤

導電膜形成に用いる金属ナノ粒子と分散剤金属は,超微粒子化により劇的に融点が低下することが知られている.これは,金属粒子の径が小さくなるのに伴って,単位体積当たりの表面積が増加し表面エネルギーが増大することによるものである.この効果を利用すれば,低温であっても粒子同士の焼結を進行させることが可能となるため,金属ナノ粒子インクにより得られる金属膜は優れた導電性を発現する1,2).実際,表面が清浄な“裸の”ナノ粒子同士では,常温でも凝集・焼結が進行してしまう(Figure 1).このため,常温においてインクやペースト中でナノ粒子を凝集させずに安定に分散させるためには,ナノ粒子表面に分散剤を吸着させることが不可欠である.
一方,インク膜に導電性を発現させるためには,ナノ粒子表面に吸着する分散剤を除去して,ナノ粒子同士を焼結させることが必要である.分散剤の除去およびナノ粒子同士の焼結のためのインク膜の焼成温度は,粒子表面に吸着する分散剤が脱離する温度に大きく依存する.このため,分子量の大きい分散剤を粒子表面に吸着させた場合,分散剤を脱離させるための焼成をより高温で行わなければならなくなる.したがって,フレキシブルデバイスのように,耐熱性の低いフィルム基板上に低温で配線を形成する場合には,分子量が小さく低温で容易に脱離する分散剤を表面に吸着させる必要があり3),用途に応じた分散剤の選択が重要になる.

2.2 金属ナノ粒子の作製法

金属ナノ粒子を作製する方法には,大別して,減圧下または不活性ガス中で金属を蒸発して作製する方法と,液相または気相で化学反応を利用して作製する方法がある.前述のように,生成直後のナノ粒子は凝集しやすいため,生成したナノ粒子の表面に分散剤を吸着させる必要がある.
金属の蒸発によりナノ粒子を作製する方法のひとつとして,ガス中蒸発法が挙げられる.通常のガス中蒸発法では,蒸発室のルツボから蒸発した金属原子は雰囲気のガスと衝突し,冷却されて凝縮し,ナノ粒子となる.ルツボ近傍では粒子は孤立状態で存在するが,遠ざかるにつれて粒子は衝突を繰り返し,二次凝集を形成する.そこで,ガス中蒸発法の改良を行い,孤立状態にある粒子に分散剤となる有機物を供給する機能を付加した4,5).
この改良型のガス中蒸発法では,得られる金属ナノ粒子の表面に,供給された有機物の分散剤が吸着するため,個々の粒子が凝集することなく完全に独立分散しているナノ粒子を生成することが可能となっている6).この方法により作製した金属ナノ粒子を有機溶媒に分散させてなるインクの製品名を「ナノメタルインク」という.ナノメタルインク中に分散している金属ナノ粒子表面に吸着する分散剤は,疎水基(新油基)を外側に向けて吸着している.したがって,この金属ナノ粒子は,低極性のトルエン,テトラデカン,シクロドデセン,シクロヘキシルベンゼンなどの炭化水素系の有機溶媒に安定に分散する.例として,Au ナノメタルインク中に分散するAu ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像をFigure2 に示す.

2.3 ナノメタルインクの焼結メカニズム

ナノメタルインクの焼結メカニズムの模式図をFigure3 に示す.加熱により分散剤が脱離し,金属粒子の表面が“裸の”状態になることで金属粒子同士が接触する.しかしながら,単なる粒子同士の物理的な接触では優れた導電性は発現しない.これに対して表面エネルギーが高いナノ粒子は,分散剤が脱離しナノ粒子同士の表面が接触すると,高い表面エネルギーを減少させようとする方向,すなわち表面積が減少する方向に物質移動が生じ,粒子同士の焼結が進行する.この焼結により,粒子間に電子伝導のパスが形成され,バルクに匹敵する優れた導電性が発現する.したがって,ナノメタルインクの焼成温度は,分散剤が粒子表面から脱離する温度に実質的に等しい.

 

2.4 低温焼結型L-Ag ナノメタルインク

ナノメタルインクは加熱焼成により導電性を発現するため,基板には焼成温度以上の耐熱性が必要である.焼成温度はナノ粒子に吸着している分散剤が脱離する温度に実質的に等しいため,透明性の高いフィルムや耐熱性の低い汎用的なフィルムを用いる場合,180℃以下の条件で脱離する分散剤をナノ粒子表面に吸着させることが必要となる.一般に,金属ナノ粒子の表面に吸着する分散剤の分子量が小さければ,焼成温度が低温でも分散剤が脱離するため,インク膜には導電性が発現する.しかしながら,分子量が小さい分散剤を用いると,粒子の分散安定性が低下してしまうことがある.そこで,粒子の分散安定性を維持しながら,より低温で脱離する性質をもつ分散剤を見出し,これをAg ナノ粒子の表面に吸着させた低温焼成型のAg ナノメタルインクの開発に成功した.このAg ナノメタルインクは,耐熱性の低い汎用的なフィルム基板上でも焼成が可能であり,優れた導電性を発現する.
低温焼成型のAg ナノメタルインク(L-Ag ナノメタルインク)の焼成温度と比抵抗値との関係をFigure 4 に示す.150℃以上で60 min の焼成により得られるAg 膜の比抵抗は10 μΩ・cm 以下であり,低温焼成で優れた導電性を示す.

 

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文 献
1) 小田正明ほか.:超微粒子とクラスター懇談会第5回研究会講演論文集,15(2001)
2) “超微粒子-科学と応用”(化学総説No.48),日本化学会,学会出版センター(1985)
3) T. Yonezawa: MATERIAL STAGE, Vol.3, No.11, 7-11(2004)
4) M. Oda: MATERIAL STAGE, Vol.3, No.11, 41-57(2004)
5) M. Oda: Journal of The Japan Institute of Electronicspackaging, Vol.5, 523-528(2002)
6) T. Suzuki, and M. Oda: Proceeding of IMC 1996,Omiya, April 24, 37(1996)
7) K. Mizugaki et al.: Journal of The Japan Institute ofElectronics packaging, Vol.9, No.7, 546-549(2006).

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