MRAM 向け量産技術開発

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1.はじめに

MRAM(Magnetic Random Access Memory:磁気抵抗メモリ) は,DRAM(Dynamic Random Access Memory:ダイナミックメモリ)の微細化によるリーク電流増大への対策や待機電力の低減を実現する潜在能力を示すことができる数少ない次世代不揮発性メモリ候補の一つとして期待されている.

MRAM
Figure 1 Example of a perpendicular MTJ stack consisting of a bottom synthetic Co/Pt reference layer. The free magnetic moment switches between two states (Parallel and Anti- Parallel).

これまで当社では,大学や研究機関にスパッタリング装置を納入してきた実績を活かし,2002 年に,200 mm ウェハサイズに対応した半導体製造工程実績のあるプラットフォームを採用したMRAM 装置をリリースした.その後,2010 年に,300mm ウェハサイズでの半導体量産実績が豊富な「ENTRONシリーズ」を超高真空対応にしたMRAM 向けスパッタリング製造装置をリリースした.現在,さらなる量産技術への適応を進めながら,当社独自の技術を構築し,来たるMRAM 量産化に向けて装置完成度を高める技術開発を続けている.本稿では,MRAM に特化した装置構成の紹介と,装置メーカに課せられた技術課題への取り組みについて紹介する.
MRAM 素子はMTJ(Magnetoresistive Tunnel Junction:磁気トンネル接合)と呼ばれる,磁性体材料を用いた機能層で酸化マグネシウムを用いたTunnel Barrier層を挟む構造を基本としており,磁気的な異方性を示す上下の層の磁気モーメントの方向を平行・反平行と変化させることで抵抗を増減させ記憶素子としている.Figure1 には東北大・研究グループによる報告1)を元に,当社にて最適化を行った膜構成を示した.現在のところ,Figure 2 に示すような電気・磁気特性が確認できている.Bottom Pin 構造を有しており,自由層(Free Layer)が反転することにより,素子抵抗の高・低抵抗が変化できる.現在,記憶の書込み技術には,偏極したスピン電流により反転させるスピン注入磁化反転(STT:Spin Transfer Torque)技術2)が検討されており,微細化により書込み電力が削減できるとして期待されている.

Magentory
Figure 2 (a) Magnetoresistivity Property of Perpendicular に,酸素イオンの基板への突入によるダメージで,特性 magnetized MTJ consisting of bottom pin structure. (b) Example of VSM property and Schematic diagram of magnetic moment (FL : Free Layer, RL : Reference Layer, HL : Hard Layer).

MRAM の装置市場においては,スパッタリング製造装置で成膜した積層膜に求められる特性は以下の項目が挙げられる.
(1)高出力の確保(高い抵抗変化率(MR ratio))
(2)長期間のデータ保持耐性(磁気特性に依存)
(3)後工程での耐熱性確保(≧400℃)
(4)低電力書込み(記録層の材料と膜厚に依存)
特に,(1)(2)については,製造装置に課せられる命題であり,どれだけ理想的な数値や膜質に近づけられるかが重要な取り組みと言える.

(※この記事は、2017年2月発行のテクニカルジャーナルMo.80に掲載されたもので、内容は取材時のものです。)

2.MRAM に特化した量産装置性能の向上

2.1  垂直磁気異方性を示す人工格子構造Co/Pt 多層膜のスループット改善

Figure 1 に示すように膜構成の中には,Co とPt を1nm 以下の極薄膜で複数周期に渡って積層した垂直磁気異方性を利用した膜構成が採用されている.従来では,Co とPt の積層構造を形成していく上で,成膜と未成膜時間が間欠的に発生していた.そこでプロセス時間を短縮するために,未成膜時間を省略して,放電を連続的に切り替えることで,約70%の時間短縮を達成した.しかも異方性磁界の変化は僅かに抑えることができた.
Table 1 に各条件別(A~D)の磁気特性と改善率を示した.従来プロセスのA 条件に比べて,D 条件では,できる限りCo とPt の成膜圧力の差を少なくし,カソード遮蔽板の動作も限定的なものに変更した.

MRAM data
Table 1 Process Time and Magnetic Properties of several conditions A, B, C, D.

2.2 Co ターゲットの長寿命化

MRAM において磁性体材料は必要不可欠である.量産の局面から課題を挙げると,マグネトロンスパッタリングを採用しているカソードにおいては,低圧における放電維持を可能にしたまま,ターゲット寿命を確保することは非常に困難な課題と言える.
現行のカソード機構を見直し,課題の抽出を行った.
各課題に対して改善策を施すことにより,約5 倍の大幅な改善を達成した.Table 2 には,課題点と対策内容を纏めた.Figure 3 にターゲット寿命までの特性安定性を示した.安定した成膜レートと比抵抗を維持することができている.

Issue list
Table 2 Isuue list to improve Co target life.
MRAM data2
Figure 3 Per formance Stability of Co material with Magnetron Sputtering Cathode.

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文 献
1) H. Sato, E. C. I. Enobio, M. Yamanouchi, S. Ikeda, S.Fukami, S. Kanai, F. Matsukura, and H. Ohno, Appl.Phys. Lett. 105, 062403(2014)