真空蒸着プロセスを用いたLi 金属負極の開発

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リチウムイオン二次電池(Lithium-ion Battery : LiB)は,スマートフォン,ドローン,電気自動車(Electric Vehicle : EV)といった幅広い用途に適用され,市場規模は急速に拡大することが予想されている。特に自動車市場においては,欧州のEuro7 をはじめとする各主要国での排ガス規制の高まりや米国加州のZero Emission Vehicle(ZEV)規制強化,中国のNew Energy Vehicle( NEV)規制の動きを受け,従来の化石燃料を用いたエンジン技術ではこれらの規制をクリアすることが困難である。そのため,EV やプラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Vehicle : PHV,PHEV)の普及に各自動車メーカーは舵切りを始めている1)

シンクタンクの調査によると2040 年にはEV/ PHV の世界販売台数が6000 万台に上るという予測があり2),それに伴って電池容量の需要も急増すると言われている。従って,生産設備の増強や大容量の電池開発が急務であり,その実用化に向け各電池メーカーがしのぎを削っている。

 

(※この記事は、2019年9月発行のテクニカルジャーナルMo.83に掲載されたものです。)

 LiB における負極

現行LiB とLi 金属負極を用いた次世代LiB

LiB は正極,負極,セパレータがFig.1 のように重ねられた状態で電解液に浸されている構造である。前述のように電池容量を向上させるために,各部材の材料や製法に関する開発が進められている。現在,負極はグラファイト塗工膜が用いられ,その理論容量密度は370mAh/g である。そのグラファイト負極を容量密度の大きい材料に変更することで,大容量化が図れる3)
特に,3860mAh/g の理論容量密度を持つLi 金属負極に置き換えることが理想的と考えられ,次世代の負極材料の一つとして注目されている。

圧延Li 箔を用いた負極の課題

Li 金属は容量にとって理想的な系であるが,安全性と寿命の観点で課題がある。これらは,充放電反応をくり返した際に生じるデンドライトと呼ばれる針状にLi 金属が析出する問題4)が原因と考えられる。このデンドライトが成長し続けることで,正極と負極の短絡を引き起こし,発火等の原因となる。

またFig.2 に示すように,成長過程において脱落したデッドLi という充放電に寄与しないLi が生じ,電池寿命の点で課題が残されている5)。デンドライトは充電時の負極に生じる電流集中が原因と言われており6),Li 表面を平坦にし,かつ均一な表面被膜を形成することで電流分布を改善し,抑制することができると考えられる。現在,Li 金属負極として一般的に用いられる圧延プロセスにより作製したLi 箔は,圧延ローラーの表面粗度,プロセス雰囲気といった観点から前述の課題を解決できていないと考えられる。筆者らはこれらの課題を解決する手法として,表面平滑性に優れ,雰囲気制御ができる真空蒸着プロセスに着目した。さらに,現行の量産塗工ラインに適用することも視野に入れ,巻取蒸着法を選択し,Li 金属負極の量産化に向け開発を行っている。

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https://www.ulvac.co.jp/r_d/technical_journal/tj83j/

 

文 献

1) みずほ銀行産業調査部 : Mizuho Industry Focus 205, 11(2018).
2) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 : focus NEDO 69, 9(2018).
3) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 : NEDO 二次電池技術開発ロードマップ 2013(Battery RM2013), 10(2013)
4) 電気化学会 電池技術委員会編, “電池ハンドブック(” オーム社, 2010)p.58.
5) Xin-Bing Cheng, Rui Zhang, Chen-Zi Zhao, and Qiang Zhang : Chemical Reviews, 117, 10406
(2017).
6) Kiyoshi Kanamura, Naohiro Kobori, and Hirokazu Munakata : BLIX, Symposium on Energy Storage, San Jose(2017), p.6