大胆な設備投資と技術開発で「the metal solution」を展開

第2、第3の節目はHIP、機械加工の導入

長谷川: 次に2つ目の節目はHIP(Hot Isostatic Pressing:熱間静水圧プレス)事業の開始です。
HIPプロセスは1000気圧以上までアルゴンガスを加圧し、炉内を高温に封じ込むことにより、粉末金属材料の焼結や、鋳造品内部にある欠陥除去、拡散接合をすることができますが、特に焼結技術を応用して、目的に応じた新しい材料を開発できるところが魅力です。
1984年(昭和59年)にHIP装置1号機を導入し、鋳造品や焼結品の高密度化を中心にHIP事業を発展させてきました。現在では中国子会社に設置しているものを加えると、18基所有していることになり、目的に合わせて使い分けています。
3つ目の節目は機械加工の開始です。1990年、弊社で初めて本格的に加工を始めたわけですが、後発事業者としては、他社と異なる特徴を打ち出そうと、ハステロイというニッケル系の硬くて粘いものに特化し、事業を始めました。また、後発事業であっても機械加工業者が熱処理事業に参入するのと、熱処理業者が加工事業に参入するのとでは、後者の方が参入のハードルが低かったことと、特に航空業界のお客様の「ノコギリ発注*」の解消に役立ったことが、成功の理由だと思っています。
その結果、現在の事業セグメントとしては、大きく分けて創業以来の真空熱処理炉を用いた金属熱処理事業に加え、HIP事業、ホットプレス事業、加工事業、成形事業、エンジニアリング事業など6事業があります。
それらを支えているのが、熱処理管理技術、ろう付技術、真空ホットプレスならびにHIP装置を用いた拡散接合技術と焼結技術、SPF(Super Plastic Forming)装置を用いた超塑性成形技術、EBW(電子ビーム溶接)・ロボットを駆使した溶接組立技術、大型のマシニングセンターを用いた加工技術、様々な溶射装置を駆使した表面処理、金属積層造形技術などのプロセス技術です。
*ノコギリ発注:部品の工程ごとに、発注者と受注者(主に中小企業)の間をノコギリの刃のように、行ったり来たりしながら加工を進める取引形態のこと。とくに航空宇宙産業は厳格な認証があるために、一貫生産のハードルが高く、発注・納品・受入の各作業に手間がかかるため非効率であり、コスト増や納期長期化の一要因となっている。

まるで生き物のような変化。金属加工は「設備だけでなく、技術」が必要

小日向: 御社のコア技術である「金属加工技術」の魅力とか面白さ、その一方での難しさもお教えください。

長谷川: 金属というものは、一見冷たく硬い「モノ」に見えますが、熱を加えたり冷やしたり、圧力の有無によって自在に変化します。そして、各金属の性質はきちんと決まっており、「○○な処理をすると××になる」という変化が明らかにされています。
それでありながら、同じ炉を使って同じ処理をしても、ほんの少しの条件の違いで、全く違う変化が見られたり、磨き方の違いによって接合状態が大きく影響を受けたり、伸び縮みの計算を少し誤ると驚くほど変形してしまったりと、とても物質的でありながら、生き物のような変化や違いを見せるのです。だからこそ、「設備だけでなく、技術」が必要になってきます。

齋藤: 御社は、HIPで世界でもトップクラスの処理能力をお持ちですが、最初に目を着けられたのはどういう理由によるものですか。

長谷川:切削工具などの超硬分野ではすでにHIPが利用されていましたが、それはメーカーとして利用されていたもので、我々のような処理サービスとしての導入は弊社が最初だったかも知れません。HIPのポテンシャルは当初半信半疑でしたが、粉末材料で実験をしてみましたら想像以上の成果が上がったのです。溶解ではできなかったことがHIPで可能になる。「これは世の中が変わる」と確信しました。
事実、いまでは携帯電話から大型テレビ、半導体・電子部品などほとんどのものが小型化、軽量化を実現しました。これらの多くは粉末材料を固めてつくるというHIPの技術の恩恵を受けていると思います。

齋藤: HIPのポテンシャルを直接感じとられたのですね。

長谷川: 金属加工技術という狭い領域に限らず、どんな領域においても、ものの形が変わったり、性能が上がったりと、昨日までできなかったことが、今日できるようになるなどの「変化」が必要だと思います。常にそういうことの繰り返しで成長、発展していくものだし、携わっている本人はとても面白い体験をしていることになる。これは、いかにお客様の要求や期待に応えるかに留まらず、これらの技術を活かして大きなプロジェクトにもつながっていきます。弊社のエンジニアリング事業はまさにその世界で、常に挑戦を続けています。

小日向: エンジニアリング事業ということですが、どのようなことをされているのでしょうか。

長谷川: いわゆる国家プロジェクトに関わる仕事をしています。
例えば加速器の取り組みでは、がん治療など中性子の利用技術をテーマにした研究、また、将来のエネルギー利用技術開発である、人工太陽と言われている核融合実験装置開発などのプロジェクトへの参加など、従来事業とは全く違う取り組みをしています。従来事業はお客様主導の取り組みですが、エンジニアリング事業はある程度自身の発想が優先されます。
加えて、5年ほど前から取り組んでいるジェットエンジンのリペア事業(定期的部品交換事業)では、乗客の命に関わることですから、経験を重ねるにつれ、見た目と違う厳しさを味わっているところです。この事業は、FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)やEASA(European Aviation Safety Agency:欧州航空安全庁)などの海外認証を取得する必要があります。国内では弊社のような中小企業が参入した例がないため、業界でも成り行きを見守っている状況です。