リークディテクタ
「HELIOT 900シリーズ」の開発

This post is also available in: 英語

(※この記事は、2015年6月発行のテクニカルジャーナルMo.79に掲載されたもので、内容は取材時のものです。)

3.2 微小電流検出回路

より微小な漏れを測定するためには,微小なイオン電流を正確に測定しなければならず,電離真空計5)や残留ガス分析計6)と同様にHLDの性能を決める重要な要素の一つである.
今回の開発では微小電流検出回路基板に,マイコンを搭載し,サンプリング,フィルタリング,レンジ切り替え,出力値の算出など信号の測定に直接かかわる大部分をメイン基板に頼らず行うようにし,従来のアナログ電圧による伝送方法を改め,デジタル通信でメイン基板にデータを送るようにした.オペアンプ,AD変換器は従来機種から性能が大きく向上した物を使用し,オペアンプの出力を直接AD変換することによって高いS/N比で信号を取り込めるようになり,最小可検リーク量5×10-13Pa・m3/secという微小な漏れを検出することを可能にした.

さらに,測定する電流値によって移動平均回数(フィルタリング)を設定することによって,漏れ量に対する応答速度とノイズ低減を両立させている.フィルタリングのモードとしては,FAST,NORMAL,SLOWを用意しており,用途に合わせた設定が可能になっている.
また,回路を単純化して部品点数を減らし,従来2枚のプリント基板で製作されていたものを1枚にし,コストダウンと小型化することに成功した.

3.3 電気系及びソフトウエア

「HELIOT 900シリーズ」では,アンドロイドOSを搭載した産業用7inchタブレットを表示器として採用し,有線及び無線リモコンとして使用可能な構成とした.また,付属のスタンドは向きと角度が自在に設定出来るので,スタンド型,リモコン型,吊り下げ型の設置方法が可能となった.その結果,真空装置やスニッファー法による漏れ試験を行なう場合,表示・操作するコントローラは,本体と離れ、自由な場所に置

くことが出来き,ケーブルの取り回しや長さの制約などを受けずに配置できるようになり,試験者の利便性が向上した.
タブレットに表示される画面は,シンプルで判り易いデザイン

Figure 5 Software screens.
Figure 5 Software screens.

とした.テスト画面のグラフ,メーター,数値表示では,セットポイントの設定によりグラフの色や数値の色をかえることにより視覚で測定値の判定が可能となっている.また,グラフ部をピンチイン,ピンチアウトにてレンジの幅や測定時間の幅を変更することが出来るようになっている(Figure 5).

表示言語としては従来通り,7言語対応(日本語,英語,韓国語,中国語(簡体字),中国語(繁体字),ドイツ語,スペイン語)としている.代表的な新しい機能として以下の4点を紹介する.
①内蔵校正リークによるスニッファー流量校正スニッファー用の外部校正リークを別途用意しなくても,HELIOT内部に搭載した校正リークを使用し感度校正を行うことにより,流量表示を行うようにした.
また,起動後に,真空法⇔スニッファー法の切り替えが可能になったことにより,真空容器法にてNGとなった試験体の場所特定を行う際に,機器の再起動を行わずに場所特定が可能となった.
②ベント設定
テスト終了後のベントの制御方法を新しくした.設定としては,自動,マニュアル,無効の3種類を用意した.
自動の場合:テスト終了時にベント.

マニュアルの場合:テスト終了時にはベントを行わず,テスト画面のテスト開始/終了ボタン部がベントボタンに切り替わり,ベントのタイミングは任意.
無効の場合:ベントは一切行わない.
また,ベントしている時間を設定できる機能を追加した.設定時間経過後にベントを止める機能で,ベントラ
インにN2等を接続しベントを行う際に,一定時間のパージを行う時など便利な機能となる.
③データロギング機能
従来は漏れ量などの測定データを保存する場合,オプションのPC専用通信ソフトを使用する必要があった.
今回は表示器に付属しているmicro SDカード内に,テスト開始から終了までの測定データが1ファイル構成としてcsv形式で保存さる.保存データは,年月日,漏れ量,内部ピラニ真空計圧力値を記録しているので,ユーザーでのデータ管理等が容易にできるようなる.
④サイクルテスト
従来から搭載していたサイクルテスト機能をより使いやすいものに改良した.この機能を使用することにより,外部PLC等を使用しないで,真空吹付け法,真空フード法,真空容器法,浸せき法のテストが自動化できる機能となっている.
真空フード法を使用した動作工程としては,

(1)真空排気開始(圧力判定)
(2)ヘリウム検出開始(バックグラウンド監視)
(3)ヘリウム吹付開始(合否判定)
の順なっており,これらの制御を自動化している.
設定画面で,各時間設定,判定値等の設定が容易にできるようになっている.また,サイクルテスト専用テスト画面を用意し,現在のテスト工程,異常が発生した際に,どのテスト工程で発生しているか確認できるようにした.

外部入出力信号の接続は,RS232Cコネクタを除き,「HELIOT 700シリーズ」と互換性のある設計とした.さらに前の「HELIOT 300シリーズ」で製作した漏れ試験システムにおいても,信号変換機(オプション)を使用する事で,互換性を保てるので,置き換えが容易にできる設計になっている.
従来機種と同じようにヘリウム混合ガスを使用する場合,濃度から係数を算出し,ユーザーが係数を入力することによって,100%ガスを使用した場合の換算値を表示する機能も用意している.

リークディテクタHELIOT900の3つの特長