未来技術研究所の開設

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村上 裕彦(株式会社アルバック 未来技術研究所)所長に聞く
――将来のコアコンピタンス創生に向けて

株式会社アルバックは、2015 年(平成27 年)7 月1 日、次世代における新たな事業創生の可能性に挑戦するために、未来技術研究所(茨城県つくば市 所長:村上 裕彦)を開設した。同研究所は、装置開発と材料研究という車の両輪ともいえるアルバックの強みをより一層活かすため、同研究所は文字通り「未来~少し先」の「テクノロジー」を研究することでイノベーションを創出することを目的としている。

はじめに

株式会社アルバックは「真空技術で日本の産業復興に貢献しよう」という目的の下、1952 年(昭和27 年)に創業した。当時の真空技術は現在のように幅広く利用されるものではなかったため、アルバックはいち早く研究部門を開設し、知力を尽くして着実に産業界の難問に挑戦していった。
その結果、昭和30 年代の重厚長大産業、40 年代の家電、自動車、食品などの第二次加工産業、50 ~ 60 年代には半導体を中心とする電子機器産業など、いつの時代も研究開発を前面に押し立て、生産部門である事業部と一体となって、それぞれの時代を代表する産業界に先進技術で貢献してきた。
現在では、IoT(Internet of Things)に関する情報関連機器やエネルギー、先進医療分野に不可欠なキーテクノロジーとしても期待を集めている。
しかし、近年、時々刻々と変化と進歩を繰り返す産業界において、安定的・継続的な企業活動をするためには、さらなる長期的な視点に立った研究開発を推進することで、圧倒的競争力を持つ革新的事業、いわゆるコアコンピタンスの創生につなげようという経営方針により開設されたのが「未来技術研究所」である。

設立の目的は?

未来技術研究所(以下、未来研)は、文字通り「未来~少し先」の「テクノロジー」を研究することで、既存の技術を超越する「イノベーションを創出」することにあります。
私たちを取り巻く環境は大きく変わっており、解決すべき課題も多様化し、拡大してきています。こうした中にあって、研究者は、常に、0 から1 を生みだすようなオリジナリティをもった、新しい何かを創造するという、挑戦的な研究テーマを持つことが必要だと考えています。
アルバックのような研究開発型企業は、新しいテクノロジーと、新しい社会的価値を創出することが義務付けられていると言っても過言ではありません。未来研は、経営や事業戦略を先導するための新しいテクノロジーを提案し続け、アルバックの未来発展に少しでも貢献していきたいと思います。

future tech member
未来技術研究所のメンバー

研究テーマは?

未来研は、表面処理開発センターと、3 つの研究領域(次世代エネルギー、次世代エレクトロニクス、次世代マテリアル)でスタートしました。「オープンイノベーション~開かれた研究所~」を基本として、社内の他の研究開発部署からも、価値ある社内ベンチャー的テーマを随時募集し、挑戦していきます。
未来研における研究テーマは、大学や公共機関の研究所と異なり、科学的知見の獲得という学術的貢献をミッションとするだけでなく、さらにビジネス化をも見据えて、将来の事業、コアコンピタンス創出への貢献にフォーカスしていきます。

社会的貢献分野は?

エネルギー問題は、地球規模の社会的重要テーマです。エネルギーフロンティアを開拓するテクノロジーを創出することで、社会や企業に持続可能な未来をもたらすことができればと考えています。
そのためには、再生可能エネルギー利用拡大のための究極の蓄電池や、排熱をエネルギーとして再利用するエネルギーハーベストなどの研究にも魅力を感じています。未来研は、特に、これまで培ってきた材料研究のひとつであるCNT(カーボンナノチューブ)を電池電極に応用する、次世代二次電池の分野に力を入れます。

研究ポリシーは?

会社の利益に直結する事業部は失敗が許されませんから、選択と集中によりビジネスモデルをつくりあげていくわけです。
しかし研究所というのは選択と集中はしないで、自由な発想で柔軟に取り組む姿勢が大切だと思いますし、失敗するのも研究所の役割といっていいでしょう。失敗には二通りあり、単なる失敗と未来を開く失敗があるのです。つまり研究活動における失敗の多くは、未来を開くための一つの成果なのです。
そのためには、研究テーマのやるべきビジョンとコンセプトがあって、それをどのようにして一つひとつクリアしていくのかが重要です。ですから私は、やる前から「これは難しい、これはダメだ」という、研究テーマを止めさせるような評価はしない方がいいと思っています。とにかく自分たちで切り拓いて、研究者がそれぞれのテーマでリーダーシップをとっていくくらいのバイタリティをもった研究所にしていきたいですね。

求められる研究者の資質とは?

イノベーションが創出されるときというのは、異分野が交流するときではないでしょうか。一般的に異分野交流会の場に参加することは簡単なことですが、自分の中で異分野交流をしないと新しいものは生まれません。ただ異分野の人が集まってお茶を飲んでいるだけだったら会社としての交流とか、研究テーマとしての交流はあるかもしれないけれど、ブレークスルーには絶対につながらない。
その良い例が、1953 年、ワトソンとクリックによってなされたDNA の二重らせん構造解明のエピソードです。彼らにその手がかりを与えたのは、結晶構造を調べる実験技術としてのX 線回折像がヒントになったからです。その技術を用いて構造解析をしてみたところ、二重らせん構造であることを見つけたのです。つまり、生物学の専門家が物理学の手法を自分の中でとり込んでみて、新しいフェーズが生まれたのです。これが私の目指す異分野交流だと思います。
未来研が求める研究者の資質として、「生意気さ」が挙げられます。生意気な研究者はただ生意気ではなく、「自分は絶対に負けないんだ」、新しいフィールドでも「おまえら黙って見てろよ、自分がつくってやろう」というぐらいの気概のある研究者を育てたいと思います。そういう研究者になりたいという人がいましたら、ぜひお問い合わせください。お待ちしております。

mems future
CNT で作製したULVAC の文字(線幅:約20μm、高さ:100μm)
Niob
超伝導加速器用高純度ニオブ材料