研究活動の原動力は「面白い」と感じるキュリオシティ

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人間の理解につながる有機エレクトロニクス研究

――実用化へのロードマップ、先生の夢は?

染谷:今行っている研究の中には、いよいよ実用化段階に入り、社会実証ができるフェーズを迎えているものがあります。そのためには外部との連携をより拡大し、実証に向けていきたい。
例えば、伸縮性のセンサーを皮膚に直接貼り付けるデバイスは、すぐに試したいというオファーを病院からいただいています。でも、大学ではプロトタイプしか作成できないので、少数しかつくることができません。
そういう有用性を実証しようとすると、100個とか、場合によっては1,000個といった数をある程度の品質でつくる技術が必要です。そこは大学の限界です。企業への橋渡しをスムーズに行い、そのギャップを埋めていくことで、技術が発展していくと同時に産学連携が重要な役割を果たしてくれると思います。

――先生の夢は?

染谷:私の研究は非常にシーズ志向で、やわらかいデバイスをどうつくるか、それが人工物と生物のギャップを埋める1つの大きな手段になるのでは、というのが研究の原点です。そして、ギャップを埋める研究は、ギャップがどこにあるかを正確に知ることです。
そこから得られた生体の情報は、人間が自然な形で生活をしている中で、本来生体はどういう信号を出すか、活動しているのかを計測していることに他ならない。これらの情報は、そのまま人間の理解につながります。半導体の性能が上がると人間の理解が深まる。この関連性は面白いですね。
生体の活動を自然のまま計測したり理解することは、100年の計でやることなので、私が現役で行きつくところには限りがあります。私が研究者の現役を終えた後も、もっとそれが発展していくように、研究室のメンバーが自分たちの面白いところを、自分たちの視点で発展させていってほしい。

今使われている「フレキシブルエレクトロニクス」という言葉が将来はなくなると思います。つまり、ほとんどすべての電子デバイスがフレキシブルな技術を使うようになり、わざわざ「フレキシブル」と言う必要がなくなる。実際にはスマートフォンなどの中に曲がるフィルム状の配線板が使われていても、一般の消費者は、こういうものが曲がるエレクトロニクスでできているとは必ずしも思わないわけです。そしてこれらの技術が発展していくにつれて、曲がるセンサーや半導体などが意識されずに日常生活に組み込まれていく。そうなったとき、ウェアラブルデバイスの将来の延長として、例えばストレスをどのように感じ、そのときの血圧の上がり下がりなどの、さまざまな症状により、たくさんのデータが集まってい
く。そのデバイスを介して集まったデータによって、人間の行動や本質に科学的な根拠を与えて計測することができるようになっていくことでしょう。

染谷研究室のメンバーは3分の2以上が海外からの留学生。国籍も多様で、研 究の議論は基本的に英語。まさに「面白い」デバイス研究を通してグローバル な若いパワーで未来を切り拓こうとしている。

 

私が研究しているウェアラブルデバイスをさらに発展させる方向として、このような科学的な新しい計測法によって、人間の本質的な理解が進んでいけばと思います。それが私の夢です。

個々のカスタマイズに対応した技術・装置を

――アルバックに対して期待することは?

染谷:生体向けウェアラブルデバイスは、それぞれの人ごとにカスタマイズしてつくる必要があります。例えば、自分の体にフィットする電子部品をカスタマイズしてつくっていく際に、コストが上がらずにできるような製造技術です。アルバックさんの装置に限った話ではないのですが、そういうものがますます求められていくのだろうと思います。
私のやっている皮膚感覚の柔らかいセンサー研究は、一点物の工芸品のように手作業の職人技でやっています。しかし、職人的な工芸品はできるけど大量の工業品ができない。そういうところにコストを上げずにスループットを維持して良品率が担保できて、一人ひとりに向けてそれぞれ違うものをつくってもコストが上がらない。そういう装置をお願いしたいですね。

 

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