微量溶液の高精度撹拌 低コストで効率的な高溶出試験法の実現に貢献

96 ウェルプレート上のサンプルを直接撹拌可能なMICROPADDLE

中外製薬 酒井憲一氏

中外製薬 生産工学研究部 プリンシパルサイエンティストの酒井憲一氏は候補化合物の処方設計を迅速かつ効率よく行うことをコンセプトとしたハイスループットフォーミュレーションスクリーニング(High-throughput formulation screening:HTFS)システムを開発した。1)その一翼を担ったのが、アルバックの微量精密攪拌機MICROPADDLE である。
MICROPADDLE は96 ウェルプレート上の個々のサンプルを直接撹拌できるシステム。1つのプレートで12 の撹拌条件を設定できる。微量・多種サンプルを高精度・ハイスピードで撹拌可能な本製品の実用例を酒井氏に聞いた。

1)Sakai K., et al., 2016 AAPS Annual Meeting and Exposition(Denver),37T1030(2016)

溶出性の評価サンプル数が12 から1,200  

近年、医薬品の候補化合物は難溶性のものが増加している。リードオプティマイゼーション後のような創薬初期段階においては、製剤化に使える薬物は限られており、その中からフェーズ1に向けて少量で効率的に処方設計を行う必要がある。そこで中外製薬では「複数同時高速開発」をキーワードにHTFS システムを確立した。
この中でMICROPADDLE は固体分散体(SD)の溶出性の評価に用いられる。ここで精度の高い評価ができるかが、製剤設計の成否に大きく関わってくる。
従来の溶出試験のようにベッセルを用いた場合、スペースの都合で一度に評価できるサンプル数は限られてしまう。一方で、マイクロプレートを用いて評価を行うとなるとシェイカーなどを用いなければならない。しかしこの方法では、均質な撹拌を行えないため過大評価もしくは過小評価してしまう可能性が高い。SD 製剤開発のスピードアップには、HTFS において、効率的に、溶け始めてから溶け終わるまでのキネティックな溶出性評価を行うことが求められていた。それを実現したのがマイクロプレート上で高精度に撹拌するMICROPADDLE である。
MICROPADDLE は規格品の96 ウェルプレートに適用でき、簡単な操作で高精度な撹拌が可能である。導入後は1日の評価サンプル数が12 から1,200 に増加。1 サンプルあたりの化合物の消費量は1,000 分の1 まで抑えることができた。ベッセルを用いた場合との同等性もとれており、シェイカー法に比べてバラツキが低減化されている。「高精度だからスピードアップもできる。これがイノベーション」と酒井氏は高く評価する。
今回は溶出性試験での利用について紹介したが、酒井氏は中外製薬の独自技術である製剤の膜透過性の試験でも有用であると述べ、それ以外にも微量溶液で高精度の撹拌を行いたい場合全般で利用可能であると、その可能性を語る。

製薬企業のニーズとアイデアを実現

微量精密攪拌機MICROPADDLE

MICROPADDLE の開発は酒井氏の一言から始まった。アルバックで以前から取り扱っている分子間相互作用解析装置の引き合いで、その機能の一部である微量の溶液を撹拌するところを見た酒井氏が「こんな微量液体を精密に撹拌できる攪拌機があればいいよなあ」とつぶやいていたことを担当に伝え、開発がスタートした。
高精度が何よりも重要になる溶出試験。回転の制御だけでなく、パドルとウェルの位置関係が一定であることが安定した結果を得るためには必要不可欠である。また、このパドルの位置決めが簡単にできるという操作性については特にこだわって要求を出したという。アルバック開発担当もこの2つの点については苦労したことを明かす。それを見ていた酒井氏は、「みなさん、(マイクロプレートに)はめるだけで簡単に使っています。でも、それはストレスフリーが実現できているっていうことですよね」と完成度の高さをあらためて評価する。
「われわれのニーズを、機器メーカーのアルバックが実現してくれた。新製品の導入なので、初期不具合の発生を懸念していたが、不具合には原因を調べて的確に報告し、素早く対応してくれた。おかげで、本評価系を素早く立ち上げることができた」と酒井氏は満足した表情を見せた。

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