生産技術による安定供給で 世界トップシェア獲得

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急進のモジュール事業も標準化・多品種少量生産を実現

株式会社 村田製作所は、積層セラミックコンデンサーや通信用モジュール、センサーなどの電子部品専業メーカーとして世界有数の企業である。2015 年(平成27 年)3 月期の決算では、過去最高の業績を更新し、連結売上高で1 兆円を越えた。同社が連続して好調を維持している原動力は、低コスト、高品質、安定供給を可能にする生産技術に加え、常に先進的なニーズの取り組み、的確な製品を市場に投入する商品開発力に負うところも大きい。その中で近年目覚しい伸展を見せているのがスマートフォン向けの通信モジュール事業である。今回の「巻頭対談」では、そのモジュール技術の統括的役割を担われている通信・センサ事業本部フェローの酒井範夫氏をお迎えし、好業績を支える生産技術やプロセス開発を中心に、貴重なお話を伺った。

●ゲスト(左)
株式会社 村田製作所
通信・センサ事業本部※ フェロー
酒井 範夫 氏

●聞き手(右)
株式会社アルバック 代表取締役執行役員社長
小日向 久治

*本稿では製品名等の登録商標の表記は割愛しています。
(※この記事は、2015年7月発行の 広報誌No.65に掲載されたもので、内容は取材時のものです。)

R&D 部門に組み込まれている生産技術部門

小日向:アルバックは、村田製作所様(以下、ムラタという)から長きにわたってお取引を頂戴しています。改めて心から感謝申し上げます。
ムラタさんは、積層セラミックコンデンサーや圧電材料などの専門メーカーとして、多くの製品が世界トップシェアを獲得されています。高度な材料技術に支えられた精緻な電子部品に加え、近年、スマートフォンを中心とするモジュール関係も事業の大きな柱の一つとして、さらに事業を拡大されています。
酒井さんは、そのモジュール技術の統括的役割を担われていらっしゃいますので、モジュールを中心としたプロセス開発や生産技術についてお聞かせいただきたいと思います。なお、弊社の研究開発部門の総責任者である齋藤一也(執行役員、技術企画室長)もご一緒させていただきます。
さっそくですが、ムラタさんの生産体制についてお聞きしたいと思います。
酒井:当社の場合、組織そのものは多くの企業と比べ、大きく変わっているところはありません。一般管理部門である人事や経理など、事業部門ではコンポーネント、デバイス、モジュールの各事業本部と新規事業を担当するニュービジネス、新商品の各事業部、それに営業事業本部という構成です。
ただし、特徴的なことは、通常R&D というと材料などの基礎研究が中心ですが、当社のR&D 部門には生産技術部隊が組み込まれている点です。生産技術部隊で総勢1,000 人ほどいます。
小日向:それは驚きです。いつ頃から取り組まれたのでしょうか?
酒井:R&D に生産技術部隊が組み込まれたのは15 年ほど前からです。
当社は材料を加工する電気部品メーカーですから、過去、組織としては電気と化学の部門に重きが置かれ、機械部門はそれほど重視されていませんでした。ところが創業者の村田昭(あきら)名誉会長の社長時代に「ムラタは材料を自分のところでつくっているが、他社との差別化を図るために、生産設備も自前でいこうや」と、生産技術が重要視され、R&Dに位置づけられるようになったのです。その部隊は野洲事業所にいて、当社の生産を下支えしています。
小日向:名誉会長は先見の明がおありだったのですね。
酒井:半導体はメジャーな事業ですから、アルバックさんみたいないろいろなメーカーが生産設備を出しています。ところが我々の事業は、半導体の薄膜に対して、厚膜の部類に入ります。厚膜用の生産設備はほとんど売られていませんでした。一時、中京地区の業者が専門につくっていましたが、ニッチな分野ですからいつの間にかそんな会社もなくなってしまいました。
結果論ですが、自分でつくらざるを得なかったというのが実情でした。そういう時代背景もあって自社開発を始めたのだと思います。
いまではR&D 部門に組み込まれ、材料と生産設備が車の両輪のように揃わないとモノができないという考えが社内に定着し、それが今のムラタの発展の原動力になっています。

村田製作所製品ラインアップ
図表1 村田製作所の製品ラインアップと売上高に占める製品別構成比率(連結会計年度:平成26 年4 月1 日〜平成27 年3 月31 日)

 

スマートフォンの登場でモジュール事業が急拡大

ムラタの次世代技術
図表2 通信技術の世代変化推移と通信市場向け売上高推移

小日向:この対談の冒頭でもお話しましたが、ムラタさんは、材料事業に加え、最近はモジュール関係の売上が拡大してきており、主力である積層コンデンサーと肩を並べるほどの実績を上げられています。
酒井:特に通信モジュール事業は、スマートフォンの普及拡大に伴い急伸しています。2015 年(平成27 年)3 月末決算の売上高に占める構成比では、コンデンサーが32.2%、通信モジュールが29.6%を占めています。(図表1参照)
昔は、「モジュールは儲からん」といわれるのが常でした。このためモジュール事業はずっと片隅におかれていました。2000 年頃の携帯電話のマザーボードは、ディスクリートと呼ばれる単品のチップ部品で構成されており、モジュールはほとんどありませんでした。
その頃は、あるセットメーカーから「ムラタのモジュールは使いません」。「ムラタの製品を使ったら、我々の仕事がなくなる」といわれたこともありました。
ところが携帯電話の多機能化やスマートフォンの登場により、状況が大きく変わりました。モジュール化へと移行していったのです。なぜかというと、超小型・多機能・高機能化が求められ、ディスクリートの設計屋さんが単品では対応しきれなくなったのです。それらの機能をまとめてモジュールにして納品してほしいというニーズがでてきたのです。

お客様のニーズを第一にする開発ポリシー

小日向:ムラタさんの社是を拝見すると「技術を練磨し、科学的管理を実践し、独自の製品を供給する」と掲げられているように、創業から連綿と受け継がれた精神を根幹にして、将来を見据えた開発をされていらっしゃいます。ムラタさんの開発体制の特徴をお聞かせください。
酒井:当社はセラミックのメーカーですから、新製品は材料技術から生み出されるものだったわけです。時代が進むにつれて、電気・通信技術の分野も加わるようになると、その視点からも新製品が生み出されるようになり、この両方の技術を融合が当社の強みだと思います。
小日向:シーズの部分とそれを応用するニーズとのコラボから生み出されるわけですね。シーズだけだと独りよがりの開発になりがちですからね。
齋藤:その開発に当たり、将来の道しるべともなる技術ロードマップを作成され、計画的に開発に当たられているとお伺いしましたが、どのようにビジネスに結びついているのでしょうか。
酒井:実際の開発というのは計画通りにうまくいくわけではありません。当社の村田恒夫社長は数年前から最も大切な価値観として、「CS(Customer atisfaction)をお客様に認めてもらえる価値を提供し続けること」と定義しています。独りよがりではなくて、まずはお客様が何をほしがっているのかが重要だというわけです。つまり、開発部門は、そういうことに対応することで、ビジネスに結びつく製品が生まれることだということでしょう。
小日向:私も社員には同じようなことを言っています。ニーズの掘り起こしのために、お客様との技術交流会を定期的にやろうと提唱しています。
酒井:技術交流会というのはただ単にTRM (Technical RoadMap) の進捗状況をすり合わせることではなく、「お客様はこういうことを懸念されているのかとか、こういう方法があったのか」という、それを知ること、それが目的ではないでしょうか。展示会などのイベントでは理解できなかったことが直接話し合うことで、問題点の掘り起しができることだと思います。
小日向:やはり顔を合わせて意見交換をすることが大切ですね。