世界で初めて、共振ずり測定装置「RSM-1」を商品化、販売を開始
ナノスケールの厚みの液体における粘性、摩擦・潤滑特性が評価可能

2010年2月15日 アルバック理工株式会社

 アルバック理工㈱(横浜市緑区 代表取締役社長 石井芳一)は、独立行政法人科学技術振興機構の独創的シーズ展開事業(独創モデル化)を利用し、学校法人 東北大学多元物質科学研究所 栗原和枝教授が世界で初めて独自に開発した、微細空間の液体の特性を評価する手法である共振ずり測定法、不透明基板間の表面力を測定するためのツインパス型表面力測定装置の技術移転を受け、共振ずり測定装置(Resonance Shear Measurement System)「RSM-1」の商品化に成功しましたので、発表いたします。

[背景]

 固体表面に挟まれた液体は、表面間距離がナノメートルレベル(分子サイズの数倍程度)以下まで減少すると、閉じこめおよび界面の効果により、規則構造の形成や粘度の劇的な上昇などバルクとは大きく異なる特性を示すことが知られています。この距離は、液体分子間および液体分子-固体表面間の相互作用に強く依存します。従来、ナノスケール厚みの液体の粘性や摩擦・潤滑特性を評価する装置として表面力装置(Surface Force Apparatus)を利用したずり測定装置がありますが、これらの特性を一つの装置では評価できないなどの限界がありました(表1) (参考資料)。
 今回商品化した共振ずり測定装置「RSM-1」は、二つの固体表面間に液体を挟み、連続的にナノメートルのオーダで液膜の厚みを変えながら、共振ずり測定を行う装置です。測定結果から、液体の構造化挙動、粘度、摩擦・潤滑などの特性を距離の関数として評価できます。また、表面力測定も可能であり、表面電位や接着力、吸着特性などが評価できます。

[測定原理]

20100215j
 共振ずり測定(図)は、平滑な二つの固体表面に挟まれた液膜の厚みをマイクロメートルオーダから接触まで、ナノメートルオーダの分解能で制御しながら、上の表面を横方向に振動させて、そのずり応答を共振法により観測する手法です。装置上部のずりユニットの機械的な共振応答を利用し、共振周波数と応答強度から挟んだ液体の特性による変化を評価ができます。共振周波数における大きな応答を利用するため、感度が高くノイズにも強い測定が可能です。
 今回商品化した装置において、表面間距離の測定には、従来用いられてきた透過型干渉法(FECO法)に加えて、反射型干渉法であるツインパス法も利用可能となっており、従来は不可能であった不透明試料を用いた測定可能です。
 また、下部表面に接続されたバネのたわみを測定することで、バネばかり法によって精密に表面間に働く力の距離依存性を測定する表面力測定(図)も、本装置を用いて可能です。

[主な特徴]

1. ツインパス型共振ずり測定装置は、共振法を用いるためノイズに強く、ずり応答の測定感度が高い
2. フーリエ変換法により、迅速にずり応答の測定が可能(2〜10秒)
3. 表面間距離の測定・制御が可能で、ツインパス法の分解能(1nm)、FECO法の分解能(0.1nm)
4.透明試料のみならず不透明試料にも適用可能で、実用試料の評価への展開可能
5.表面間距離をナノメートルで制御しながらレオロジーからトライボロジーまで連続的に測定可能

[測定例]

•雲母間に挟まれたナノメートルレベルの厚みの水
→ 表面間距離1 nm以下で徐々に起こる構造化・粘性の増加を観測

•潤滑剤、及びそのモデル系
→ 摩擦・潤滑特性、潤滑剤への添加剤の効果、スティック-スリップ現象を観測

•増粘剤に用いられる炭酸カルシウムナノ粒子間の表面修飾の効果
→ 分散溶媒(ジオクチルフタレート)による増粘機構を解明

[応用]

 従来、摩擦機構は現象論的な理解に留まっていましたが、本装置を用いることで分子レベルの具体的な摩擦機構の評価が可能となり、より効率的な系を設計でき、摩擦、摩耗によるエネルギーロスの低減につながり低炭素社会の実現等の革新技術への貢献が期待できます。
 また先端材料の特性をナノスケールから評価できる本装置の利用により、ナノレベルでの設計指針を構築できるので、効率的な材料設計が可能となり、付加価値の高い新規材料を製造する産業の振興につながります。

[装置仕様とユーティリティ]

20100215
1. 装置仕様
測定温度:室温
必要試料量:20〜30 μlの不揮発性試料
測定モード:表面力測定
共振ずり測定 : 周波数スキャン方式 フーリエ変換方式
表面間距離最高分解能:1nm(オプションにより0.1 nm)測定環境に依存
表面間駆動距離:5μm〜接触まで

2. ユーティリティ
電源:AC 100V 20 A
設置面積:約900mm(W)×約700mm(D)

[販売・体制]

 本装置は、塗料・シーラント、潤滑剤、化粧品の評価、及び機械、デバイス、セラミックスの表面評価を行うメーカー、研究・開発機関などでの使用が期待されます。装置価格は、1台3200 万円です。
 また本装置は、東京ビックサイトで2月17日(水)〜19日(金)より開催される「nanotech2010国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」独立行政法人科学技術振興機構(No.B-15)に展示致します。

お問い合せ

アルバック理工株式会社  http://www.ulvac-riko.co.jp/
営業部 TEL:045-931-2285

参考資料

20100215a

表1 従来技術と本商品に使用している技術の比較

  従来技術
(表面力装置(SFA)によるずり測定装置(IsraelachviliやKleinらによる))
共振ずり装置
ずり応答の感度 ○共振周波数以外で測定 ◎共振法による高感度
◎迅速測定(フーリエ変換法、2〜10秒(従来法の1/20〜1/100))
表面間距離の測定・制御 ◎分解能 0.1 nm (等色次数干渉縞、FECO) ◎分解能 0.1 nm (FECO) 1nm (ツインパス)
対象試料 △透明試料のみ ◎不透明試料も測定可能
測定可能な特性 △手法により限定 ◎レオロジーからトライボロジーまで連続的に測定

[用語の説明]

1. 表面力装置

 二つの表面間に働く相互作用の力をナノメートルレベルで表面間距離を変えながら直接測定する装置で、力の起源の解明や固液界面の特性(表面電荷、溶媒和、吸着特性:例えば吸着高分子の広がりやかたさ)の評価に役立つ。原理的には、ばねばかり法を使って測定する。

2. 束縛液体

 固体表面間のナノメートルレベル(分子サイズの数倍程度)のすき間における液体は、閉じこめおよび表面の効果により、規則構造形成(液体の構造化)や粘度の劇的な上昇などバルクとは大きく異なる性質を示す。これを束縛液体と呼ぶ。ゼオライト等の多孔質な触媒内における化学反応、マイクロ・ナノセンサー内の液体の流れ方等において、このような束縛液体の特性評価が重要になっている。

3. 共振ずり測定法

 表面力装置の二つの巨視的な表面間の距離をサブナノメートルで制御できる特色を生かしたずり応答測定法であり、共振法によりずり応答を観測することで、基板間に挟んだ液体の特性の微小な変化を感度良く検出できる。液体の構造化に伴う粘性変化、摩擦・潤滑特性、液体分子と固体表面の相互作用などを、液体層の厚みを変えながら評価できる。

4. ツインパス法

 反射型の干渉法により、表面力装置の表面間距離の変化を決定する手法。従来型の表面力装置で用いられている透過型の等色次数干渉縞(FECO)法では測定できない不透明試料の測定が可能。

5. ナノレオロジー

 レオロジーは粘弾性を研究する学問分野で、主に高分子の成形・塗料・食品の分野などで重要な研究領域である。ナノメートルスケールのレオロジー特性の評価は、マイクロセンサー内の液体の流体プロセス、粒子分散系や潤滑剤の機能制御などに対して、分子レベルの系の設計指針を与える。

6. ナノトライボロジー

 トライボロジーは摩擦・潤滑・摩耗を研究する学問分野であり、エンジンのピストンやシリンダー、ベアリング等の機械部品やタイヤなど、物と物とが接触して動く多くの分野で必要とされる。ナノメートルスケールのトライボロジーは、マクロなトライボロジーの分子レベルの現象解明や、ハードディスク、ナノ・マイクロマシンにおける摩擦・潤滑の理解のために重要である。

<測定原理の詳細>

 本図1に共振ずり測定装置の構成を示す。本装置は、ツインパス型表面力装置の基本的な構成に共振ずり測定部を加えることで構成されている。以下では、(1)表面力測定、(2) ツインパス法による距離測定部、(3) 共振ずり測定に分けて測定原理について説明する。

(1)表面力測定の測定原理1)

 表面力測定は、バネばかり法によって表面間相互作用の距離依存性を精密に評価できる手法(本装置の場合は距離分解能1 nm, 力分解能100 nN程度)である。円筒形の平滑な基板2枚を直交させて配置し、パルスモータを駆動させて下部の基板を移動させて表面間距離を制御する。微小駆動のために、パルスモータの駆動距離を差動バネにより落としている。モータの駆動変位量とツインパスユニットによって測定される実際の移動量の差として試料部に接続されているカンチレバーの変位を求めることで、相互作用力が算出できる。主に試料液体を2枚の基板間に挟むか,全体を液体中に浸漬して測定を行う。

(2)ツインパス法による距離測定の原理2)

 従来の表面力・ずり測定装置は、表面間距離の決定に透過型の干渉法である等色次数干渉(FECO)法を用いるために透明な試料基板のみが使用可能であった。本装置で用いるツインパス法は、図1左下のように反射型の干渉法を用いて距離決定を行うために、不透明基板も測定可能である。ツインパス干渉法の原理について以下で説明する。レーザ光を回折格子により2つに分け、一方を参照光用ミラーで反射し、もう一方を試料部下面から反射させ、これら2つの反射光の干渉による強度変化を4分割ダイオードにより検出する。この強度変化から得られる位相変化により、表面間距離の変化を、決定できる。本測定方法では、1つの干渉光のみ用いると距離分解能が低い測定範囲ができる問題点がある。これを補うために4つに分割した回折格子で位相を90°ずらした4つの干渉光を測定に使用することで、5µm以上に及ぶ広い範囲で正確に距離変化を測定可能にしている。

(3)共振ずり測定3)

 ずり測定は,平滑な2つの固体表面に挟まれた液膜の厚みをナノメートルオーダで変化させながら、上下の表面を平行に振動させて、そのずり応答を観測する測定である。特に我々が開発した共振法では、装置上部のずりユニットの機械的な共振応答を利用し、共振周波数と応答強度から挟んだ液体の特性による変化を評価する。共振周波数は上下表面のカップリング、応答強度は系の粘性を反映する。本手法には共振周波数における大きな応答を利用するため、感度が高くノイズにも強いという特徴がある。
 測定方式としては、周波数スキャン方式とフーリエ変換方式の2種類がある。前者は周波数ωを変化させてそれぞれ応答を1点ずつ測定し、共振周波数と応答強度を得る。一方、フーリエ変換方式は、共振ピーク近傍の1つの周波数ωで表面のずり駆動させて停止後の応答の減衰を測定し、これをフーリエ変換することで同様のデータを得る手法である。後者は前者よりも迅速に測定が可能だが、測定の正確さは前者の方が勝る。このようにして得られた共振カーブから、試料部の粘弾性変化や摩擦・潤滑特性が評価できる。

<測定例>

(1) 雲母表面間に挟まれた液晶の共振ずり測定3)4)

20100215b 図3に液晶(4-シアノ-4’ヘキシルビフェニル,6CB)を挟んだ雲母の共振カーブの表面間距離依存性を示す。表面間距離D = 104〜11.7 nmでは、ピークは変化せず共振周波数がASと同じでピーク強度がやや低くなった。一方D = 11.7〜7.9 nmの範囲では、共振周波数は変化しないが、ピーク強度は徐々に減少した。さらに7.0 nm以下の距離では共振周波数は高周波数側に徐々に移動した。表面が最終的に接触できる距離は3.9 nmまでであった。
 これらの結果のうち、D = 11.7〜7.9 nmの共振強度の減少は、液晶の粘性上昇によるものであり、距離の接近に伴い、液晶の構造化が進むことが分かる。またその後の共振ピークの高周波数シフトは液晶が構造化して固体的な性質に遷移し始めることを示し、5.7 nm(11-12分子層)では上下の面を接着させる程度まで構造化が進んでいると考えられる。また最近接距離が3.9 nm(8分子層)となるのは強い表面-分子間あるいは分子間-分子間相互作用により安定化されており、その層を取り除くことが困難であることを示している。この結果は、分子数層分の距離変化に伴う液体の構造化と粘性の変化が評価できており、本測定が高感度であることを示す例である。
 図3のデータに加えて、これまで本測定により液晶の温度による相変化や挟む表面を膜修飾した場合の特性の変化が明らかにされている。また、水5)やオクタメチルシクロテトラシロキサン4)といった他の液体試料の測定例もあり、さらにシーラントの増粘機構6)や潤滑剤のモデル系7)のといった応用分野における測定例も報告されている。

(2) 塩水溶液中の雲母表面間の表面力測定2)

20100215c 純水(青)、KBr水溶液 0.1mM(緑)、1.0 mM(赤)、10.0 mM(黒)を、雲母表面間にそれぞれ挟み、表面間に作用する力の表面距離依存性(表面力曲線)を測定した結果を図2に示す。ここで、縦軸は表面間に作用する力(F)をディスクの曲率(R)で規格化した値であり、表面間の相互作用エネルギーに比例する値である。いずれの溶液でも、F/Rの対数はDに対して直線性を示し、その傾きから求められる減衰長は、それぞれ純水中で89.0 nm、KBr溶液0.1 mMで30.4 nm、1 mMで9.8 nm、10 mMで3.0 nmとなった。この結果は電気二重層斥力のデバイ長の計算値とほぼ一致したことから、観測された斥力が電気二重層斥力であることが分かる。以上の結果が従来型の装置の測定と同レベルの評価ができることを図2の実験結果は示す。またこの電気二重層斥力の測定から、雲母表面の表面電位・電荷を評価することもできる。

<参考文献>

1) J. N. イスラエルアチヴィリ, 表面力と分子間力, 朝倉書店
2) H. Kawai, H. Sakuma, M. Mizukami, T. Abe, Y. Fukao, H. Tajima, and K. Kurihara, Rev. Sci. Instrum. 80 (2008) 043701.
3) 栗原和枝, 液晶, 6, 34 (2002).
4) M. Mizukami, K. Kusakabe, and K. Kurihara, Prog. Colloid Polym. Sci., 128, 105 (2004).
5) H. Sakuma, K. Otsuki, K. Kurihara, Phys. Rev. Lett., 96, 046104 (2006).
6) Y. Kayano, H. Sakuma, K. Kurihara, Langmuir, 23, 8365 (2007).
7) H. Mizuno, T. Haraszti, M. Mizukami, K. Kurihara, SAE Int. J. Fuels Lubr. 1, 1517 (2009).